研究課題/領域番号 |
21K05294
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37020:生物分子化学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
菱木 貴子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10338022)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | ポリスルフィド / 表面増強ラマンイメージング / 抗薬剤耐性癌 / 薬剤耐性癌 / 浸潤性乳癌 / 薬剤耐性がん |
研究開始時の研究の概要 |
ポリスルフィド(R-Sn-R:PS)は分子内に硫黄原子を持つ活性硫黄分子種(Reactive sulfur species:RSS)の一種で、細胞の恒常性維持や細胞保護作用において重要な役割を担うことがわかっているが、反応性が高く不安定であるため非修飾での適切な分析手法がなく機能の詳細は不明であった。 申請者等は、表面増強ラマンイメージング技術を用いたこれまでの研究から、がん組織においてPSが増加し、さらにPSの増加ががんの悪性度と薬剤耐性に寄与していることを示唆する結果を得た。そこで本研究では、がん組織におけるPSの機能解明と、PSを標的としたがんの治療介入の可能性について検証する。
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研究実績の概要 |
申請者等が独自に開発をした金ナノ粒子基板を用いた表面増強ラマンイメージング(Surface-enhanced Raman Spectroscopy imaging : SERS imaging)技術により、その強力な抗癌剤耐性能から難治性癌として知られる卵巣明細胞癌や膵臓癌において、癌細胞とその周辺のCAF(癌関連繊維芽細胞)でポリスルフィド(PS)の増加が認められた。そこで本研究では癌細胞におけるPSの機能解明と、PSを標的とした癌治療法の開発を目指す(Honda K and Hishiki T et al, Redox Biology, 2021)。 ヒト乳癌の針生検サンプルによるSERS imagingの結果から、非浸潤性乳管癌に比べて浸潤性乳癌では癌細胞中のPS濃度が高いことがわかり、PSが浸潤性乳癌の診断マーカーとなり得ることを示した(Kubo A et al, Antioxidants 2023)。 そこで次に乳癌の中でも抗癌剤耐性能が高く予後不良であるトリプルネガティブ乳癌(TNBC)に着目した。針生検サンプルのSERS imagingデータからはTNBCに特徴的な知見は得られなかったが、TNBCの培養細胞株を用いた検証から、抗癌剤耐性能を持つ細胞ではセリン合成経路が活性化していることがわかった。セリン合成経路は解糖系から分岐し、チオールやPSの産生経路であるTranssulfuration経路や、核酸合成経路、脂肪酸合成経路へと繋がる経路である。どの経路が抗癌剤耐性に重要であるか検証を行ったところ、抗癌剤耐性能が高い細胞では脂肪酸合成経路が活性化し、細胞の増殖に必要な脂肪酸が増加していることがわかった。さらに脂肪酸合成経路を阻害することにより抗癌剤耐性能を解除することに成功した(業績参照)。本成果は脂肪酸代謝制御による新規乳癌治療法開発への発展が期待出来る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
乳癌において、本研究課題の最も重要なキーワードであるポリスルフィドについて、浸潤性乳癌の診断マーカーとなり得ることを示した。さらにトリプルネガティブ乳癌については当初予想していたポリスルフィドでの判別は出来なかった一方で、脂肪酸代謝経路という新規の代謝経路に着目することにより、新しい乳癌治療法の開発にも繋がる有用な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
膵癌に着目する。膵癌は既存の治療法、新たな免疫療法にも抵抗性を示すことから極めて難治性の癌として知られる。ヒト凍結手術検体を用いた膵癌部と慢性膵炎部のSERS imagingの結果から、膵癌部のみでポリスルフィド(PS)の増加が確認出来、さらにPSの増加は膵癌細胞のみならずその周辺のCAF(癌関連繊維芽細胞)でも増加していることがわかった。 膵癌は癌細胞塊が他の癌種に比べて小さく複数個所に散らばることが特徴で、膵癌の標準的な検査法である「超音波内視鏡下穿刺吸引法」では、初期の膵癌に罹患していても採取された組織に癌細胞が含まれる確率が低く、CAFのみが採取され、癌が見過ごされる可能性が高い。SERS imagingの結果から、PSの増加は癌細胞のみならずその周辺のCAFでも確認されたことから、PSが膵癌の診断マーカーとしても有効であることが期待される。 これらを背景に今後は、膵癌におけるPS増加のメカニズム解明と、PSを標的とした膵癌治療法の開発を目指す。 以下を実施予定である。①ヒト膵癌組織中PS量と癌の悪性度・薬剤耐性との相関をヒト膵癌凍結手術検体を用いたSERS imagingにより検証する。②PS合成酵素として知られるCSE, CBS, 3-MST, CARSsについてヒト膵癌手術検体を用いた免疫染色により各酵素の発現を検証する。③膵癌組織におけるPS合成酵素の空間的遺伝子発現解析(Visium)を実施する。④膵癌培養細胞株を用い、細胞の増殖・抗癌剤感受性とPSとの相関を検証する。⑤PSを分解することが知られている去痰剤(アンブロキソール、エチルシステインなど)により癌細胞の増殖は抑制されるか、またこれらの薬剤と抗癌剤との併用により抗癌剤の効果は増強されるか、培養細胞株を用いたin vitro実験とXenograftマウスモデルによるin vivo実験から検証を行う。
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