研究課題/領域番号 |
21K05295
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37020:生物分子化学関連
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
大野 修 工学院大学, 先進工学部, 准教授 (20436992)
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研究分担者 |
松野 研司 安田女子大学, 薬学部, 教授 (50433214)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | KNP-1 / キヌレニン / IDO / RORγt / インバースアゴニスト / TMP920 / XY018 / STAT1 / SR0987 / cintirorgon / シアノバクテリア / がん免疫寛容 / メタボロミクス |
研究開始時の研究の概要 |
がん細胞のキヌレニン産生を阻害する化合物は,免疫寛容の解除に基づく新規がん免疫療法剤としての応用が期待される。申請者は最近,海洋シアノバクテリアOkeania sp.より新規キヌレニン産生阻害剤KNP-1を単離した。本研究では,KNP-1によるがん細胞のキヌレニン産生抑制機構を解明し,KNP-1の新規がん免疫療法剤としての展開を目指す。新規キヌレニン産生阻害剤KNP-1を活用し,その作用メカニズムを明らかにすることで,がん免疫寛容の抑制機構の解明と,KNP-1の新たな医薬シードとしての応用に繋がる成果を得る。
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研究実績の概要 |
本課題では、沖縄県石垣市に生息する海洋シアノバクテリアOkeania sp.のメタノール抽出物から単離した新規キヌレニン産生阻害剤KNP-1の機能解明、応用展開を目指して全合成を検討した。KNP-1の逆合成解析を実施し、立体障害の小さい箇所で結合切断し、KNP-1を3つのフラグメント (A, B, C)に分割し、それぞれのフラグメントの合成に着手した。このうちジペプチドであるフラグメントAおよびトリペプチドであるフラグメントCは、それぞれ市販のL-N-MeAlaおよびN-Boc-Pheより各アミノ酸の縮合により合成した。また、フラグメントBについても共同研究先である国立医薬品食品衛生研究所のご協力のもと、鍵構造である3-amino-2-methyl-7-octynoic acid(amoya)を不斉合成した後に合成を達成した。 一方、A431細胞におけるキヌレニン産生とRORγt活性の相関を解析することを目的とし、RORγtに結合することで活性を抑制するインバースアゴニストであるTMP920およびXY018を用い、キヌレニン産生に与える影響を評価した。TMP920およびXY018でA431細胞をそれぞれ処理することにより、IFN-γ刺激時のキヌレニン産生量の増加が観測された。前年度のRORγtアゴニストがキヌレニン産生阻害活性を示した結果を踏まえると、RORγtの活性化はキヌレニン産生機構を負に、RORγt の抑制はキヌレニン産生機構を正に制御することが示唆された。以上の結果より、RORγtとキヌレニン産生のシグナル伝達経路の新規クロストークの存在を強く示唆する結果が得られた。本結果は、今後、KNP-1の作用機序を解明するための重要な情報となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規キヌレニン産生阻害剤KNP-1の全合成と作用機序解明に繋がる実験を通じて一定の成果が得られた。 KNP-1は海洋シアノバクテリアOkeania sp.由来の新規環状デプシペプチドであるが、天然からの供給量が少ないため、詳細な機能解明に向けた合成による量的供給が課題であった。また、合成を通じて提唱構造の確定や誘導体の供給に繋げることが可能となる。そのために合成研究に取り組み、共同研究によって部分構造である3つのフラグメントの合成を達成した。今後、それらのフラグメントを連結することで全合成が達成できる見込みであり、量的供給が期待できる。更には合成ルートの確立によって誘導体の合成や構造活性相関の解明にも繋がる成果を得ることができる。また、プローブ合成も可能となり作用機序解明にも役立てられる。 また、KNP-1が負に制御するキヌレニン産生機構に関して、RORγtのインバースアゴニストであるTMP920およびXY018による活性化機構を見出すことができた。本発見は前年度にRORγtのアゴニストであるSR0987およびcintirorgonが、KNP-1と同様にキヌレニン産生阻害活性を示したことを見出した成果に基づくものである。今回、RORγtの活性を抑制するインバースアゴニストを用いた検証によって、改めてRORγtとキヌレニン産生のシグナル伝達経路の新規クロストークの存在を示唆する結果を得ることができた。これらの結果は、KNP-1の作用機序を解明する上でも重要な情報となり得る。 以上の結果を踏まえ、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、KNP-1の合成、作用機序の解明と、KNP-1を活用した新たながん免疫寛容阻害剤の開発に向けた研究に着手する。 KNP-1の合成については、引き続き国立医薬品食品衛生研究所のご協力のもと取り組んでいく。その過程で得られる各種誘導体や合成中間体についてキヌレニン産生阻害活性を評価し、構造活性相関の解明に取り組む。また、KNP-1のプローブ化を試み、蛍光基導入プローブを用いた細胞内局在部位の解析やビオチン導入プローブを用いた細胞内の標的タンパク質の解析にも着手する。 KNP-1のキヌレニン産生阻害活性のメカニズムについては、STAT1の核内移行を細胞の核画分と細胞質画分を分けてウェスタンブロッティング法による解析に供することで明らかにする。また、その下流のSTAT1のDNAとの結合や転写活性に与えるKNP-1の影響についても検討する。また、RORγtとキヌレニン産生のシグナル伝達経路の新規クロストークの存在を示唆する結果が得られたことについて詳細な解析を進める。具体的には、siRNAによりRORγtをノックダウンすることで、RORγtのアゴニストによるIDO発現阻害活性やキヌレニン産生阻害活性が回避されるかどうかを調べることで、それらの関係を明らかにする。また、RORγtの転写因子としての機能とキヌレニン産生機構との関連を検証するために、A431細胞においてルシフェラーゼアッセイを用いてRORγtの転写活性について評価する。 さらにメタボローム解析システムを活用し、KNP-1を生産するシアノバクテリアより、新規KNP-1類縁体の獲得を目指す。 以上の実験を通じ、KNP-1の作用機序を解明し、新たながん免疫寛容阻害剤の開発に繋がる成果を得る。
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