研究課題/領域番号 |
21K05332
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38010:植物栄養学および土壌学関連
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研究機関 | 東海大学 (2023) 長崎総合科学大学 (2021-2022) |
研究代表者 |
井上 弦 東海大学, 農学部, 特任教授 (30401566)
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研究分担者 |
村田 智吉 国立研究開発法人国立環境研究所, 地域環境保全領域, 主幹研究員 (50332242)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 黒ボク土 / 土壌生成 / テフラ / 炭素貯留 / 埋没腐植層 / 野焼き / ススキ草原 / 非アロフェン質 |
研究開始時の研究の概要 |
国内土壌の中でも最も広い分布面積を持つ黒ボク土は主に活火山周辺に分布する.黒ボク土は活火山起源の火山灰などを主要な母材にイネ科の草本植生を有機物の給源として生成し,特徴的な黒色を呈する.この黒色は炭素が主成分であり,黒ボク土は世界の土壌の中でも最も炭素含量が高い.一方,古い火山や火山を起源としない黒ボク土も少なからず存在する.そこで本研究では,これまで黒ボク土の成因解明の主な対象となってきた活火山周辺ではなく,火山はあっても(i)活火山周辺ではない地域の黒ボク土,(ii)火山灰などを母材にしない黒ボク土,(iii)近隣に火山はあるものの黒ボク土が生成しない地域を対象に黒ボク土の成因を解明する.
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研究実績の概要 |
近隣に活火山がない地域に分布する黒ボク土の成因解明を目的に、(ⅰ) 近隣に火山が分布しない地域の黒ボク土、(ⅱ) 近隣に活火山が分布しない地域の黒ボク土、(ⅲ) 近隣に火山はあるものの黒ボク土が生成していない地域の土壌のうち、2023年度は、2022年度に調査および試料採取を行った四国山地にあって、黒ボク土A層の厚さが 50 cm を超える久万高原町赤蔵ヶ池近くの黒ボク土(ⅰ) について調べた。その結果、久万高原町の黒ボク土は、非アロフェン質黒ボク土に分類され、腐植層は黒味が強く炭素含量も著しく高い強酸性を示した。また、本腐植層の腐植(土壌有機物)の給源としてススキの寄与が大きいことが明らかになった(井上ほか, 2023)。厚いA層を持つ黒ボク土の有機物の給源としてススキの寄与が大きいことは既に明らかだが、一方で、このようなススキ草原を維持するには野焼きなどの人為的な草原管理が必要とされる。すなわち、野焼きによってススキ草原を維持する地域では,厚い黒ボク土A層が発達することが想像される。しかしながら、長崎県平戸市川内峠では、近隣に活火山が分布しない地域にあって、毎年、野焼きが行われススキ草原が維持されている。それにも関わらず、厚いA層を持つ黒ボク土は生成していない。そこで、平戸市川内峠の3地点で、土壌断面調査を行い、各土壌断面の各土層から試料を採取し分析に供試した。土壌断面調査の結果、本断面のA層の厚さは薄かった。また、黒ボク土の分類基準の1つ酸性シュウ酸塩可溶アルミニウム(Alo)と鉄(Feo)含量を1/2にしたAlo+1/2Feo含量は基準値 ≧ 20 g kg-1 を満たさず、川内峠周辺の土壌は黒ボク土に分類されなかった。すなわち、活性アルミニウムや鉄含量が少なければ、土壌中に保持できる腐植の量も多くはならず、黒ボク土が発達しないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画で予定していた3つのタイプの土壌に関する調査および試料採取は、3年間でほぼ予定通り行い、分析なども順調に進捗した。本研究で新たに分析を行った試料に関する研究成果は、日本土壌肥料学会や日本ペドロジー学会など土壌に関する専門学会で学会発表を中心に公表した。また、本研究の結果を踏まえ,近隣に活火山が分布しない地域にあって、毎年、野焼きが行われススキ草原が維持されている地域の土壌断面調査を行い、試料を採取した。この試料は本研究の他の試料と同様な分析に供試した。さらに,昨年度の報告書にも記述したように、2022年度に行う予定で、2023年9月ごろに実施予定としたスリランカ国ホートンプレインズ国立公園での土壌調査および試料採取は、現地での調査許可を得、2023年9月に実施した。その結果、火山が全くないスリランカ国において、標高 2,000 m を超える草原植生下で土壌断面調査を3箇所で行った。いずれも黒色味の強い日本の黒ボク土A層と類似の土壌断面形態を持つことが示唆された。一方で、当初、日本の植物防疫所の輸入許可を得、現地での輸出許可も得ていると認識していた土壌の日本への輸出は、現地での輸出許可が降りず、その後も,許可申請を試みているものの、2023年度内の分析は行えなかった。そのことを踏まえ、2024年度内に日本への土壌輸入と各種分析を目指し,期間延長の申請を行った。ただし、このままスリランカ土壌の分析が完結しないことも想定している。論文についてはまだ完結していないものの、論文執筆できるだけの材料は揃っているので、論文執筆を随時進めている。また、昨年度の報告書にも記述した黒ボク土の黒い色の色変化を解明するため、当初予定していた野外実験は、ススキ、ネザサ、落葉と火山灰試料、さらに微生物資材を粉砕し水を加え、インキュベーターで培養する室内実験に切り替え、現在、継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、まず2023年9月にスリランカ国で採取し、現在までスリランカ国からの土壌輸出の許可が得られていない土壌試料の輸出許可の取得を目指す。スリランカ国からの土壌試料の輸出が完了していないことを主たる原因として、本研究期間を1年間、延長したので、引き続き土壌輸出の許可が得られるよう関係各所に働きかけを行う。それでも土壌輸出が難しい場合には、国内で得られたデータのみで、本研究の取りまとめを行う。国内調査では、既に本研究に関連した分析データの蓄積があるため、すぐに取りまとめを行うことはそれほど難しくないと予想される。学会発表は毎年度着実に行ってきたが、論文執筆および投稿についてはまだ不十分であるので,本年度中に1本でも多く、論文執筆と投稿、そして専門誌への掲載を目指す。また、原材料(ススキ,ネザサや火山灰など)から黒ボク土を作る試みは、なかなか上手くいかず、野外での実験をあきらめ、室内での培養実験に切り替えたので、研究期間を1年間延長した中で、引き続き、最適な土壌生成条件について実験を進める。さらに、研究計画書に記述した調査地域での土壌調査と試料採取、それに伴う各種理化学分析はある程度目処が立ったので、「近隣に活火山がない地域に分布する黒ボク土」の比較試料として、火山近くの黒ボク土A層、特に、埋没腐植層の生成年代などを調べる。年代測定は放射性炭素同位体年代測定法を用い、年代測定を専門に行う分析会社に依頼する。加えて、本研究の内容に即し、条件が一致する調査地域が新たに見つかった場合には、本年度の予算の範囲内で現地を訪問し、土壌断面調査と試料採取、引き続き本研究で行なっている土壌の理化学分析を行う。このようにして、近隣に活火山がない地域に分布する黒ボク土の成因を明らかにするだけでなく、火山近郊の黒ボク土、即ち黒ボク土の成因解明へと繋げる。
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