研究課題/領域番号 |
21K05361
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小川 直人 静岡大学, 農学部, 教授 (60354031)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | LysRタイプ転写調節因子 / 芳香族化合物 / 3-ヒドロキシ安息香酸 / Burkholderia / レポーター実験 / ゲルシフト実験 / Cupriavidus / 芳香族塩素化合物 / クロロカテコール / プロモーター |
研究開始時の研究の概要 |
細菌で最大の転写調節因子のグループを構成するLysRタイプ転写調節因子(以下、LTTRと略す)による転写活性化の初期段階は、制御する遺伝子群のプロモーター領域への結合と、芳香族化合物等の誘導物質の認識からなる。本研究では汚染物質となるような芳香族塩素化合物を含めて、芳香族化合物の分解遺伝子群の発現調節を行うLTTRについて、立体構造情報を元にした生化学的解析と複数のLTTRの比較解析により、制御する遺伝子群のプロモーター領域への結合機構と、LTTR内部の制御ドメインにおける誘導物質認識機構を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究では、多様な芳香族化合物の分解能をもつ土壌細菌Burkholderia multivorans ATCC17616株の3-ヒドロキシ安息香酸(3-HB)分解遺伝子群を主な対象として、芳香族化合物分解遺伝子群の発現調節機構の解析を行っている。同株の3-HB分解遺伝子群は、その上流に位置するLysRタイプ転写調節因子の遺伝子mhbRの産物によって、3-HBまたはゲンチジン酸(GA)を誘導物質として、転写が活性化されることを、昨年度、明らかにしている。 本年度は、このMhbR(ATCC17616)の誘導物質認識機構を調べるために、アミノ酸を置換した変異体を5つ作製し(Leu135Ala、Pro207Ala、Ser233Ala、Leu234Ala、Cys300Ala)、レポーター実験を行った。その結果、Ser233AlaとLeu234Alaの2変異体は、3-HB、GAに対して、野生型MhbRとは異なる応答パターンを示した。一方、他の3つの変異体は、野生型MhbRと比べて、3-HB存在下での転写活性化能が弱くなった。この結果から、上記の5か所のアミノ酸は、MhbRの誘導物質認識、もしくは転写活性化能に関与していると考えられた。これらは、細菌の転写調節因子による芳香族化合物の認識能に関する、新たな知見である。 ゲルシフト実験に使用する、MhbR(ATCC17616)タンパク質は、昨年度まで、Capturem His-Tagged Purification Kitを使用して、簡易精製を行っていたが、本年度、新たに、His60 Ni Gravity Column Purification Kitを使って抽出手法を検討した結果、より多くのMhbR(ATCC17616)タンパク質を、より精製度が良い状態で抽出する方法を確立できた。 以上より、MhbR(ATCC17616)の誘導物質認識能に関わるアミノ酸を明らかにするとともに、同タンパク質をより精製度が良い状態で抽出する方法を確立でき、MhbR(ATCC17616)のgtdAプロモーター領域への結合をより詳細に解析する実験を進める基盤を整備できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写調節因子MhbR(ATCC17616)の誘導物質認識能の解析が順調に進み、また、gtdAプロモーター領域との結合の解析を行うために使用する同タンパク質について、抽出の際の精製度、収量を向上させることができた。一方、MhbR(ATCC17616)およびMhbR(NH9)両タンパク質の、コドンを最適化した人工遺伝子を使用した発現系は、検討の結果、それぞれの、野生型配列の遺伝子による発現系と比較して、大腸菌での発現量に大きな差は見られなかった。しかしながら、上記のように抽出方法を改良できたことにより、MhbR(ATCC17616)とgtdAプロモーター領域との結合の、より精度の高い解析が可能になった。 一方、MhbR(NH9)は、レポーター実験が困難であることが判明し、誘導物質認識能に関するMhbR(ATCC17616)との比較解析のために、これを実験材料として用いることは難しいと考えられた。そのため、MhbR(NH9)に加えて、誘導物質認識能に関する知見や立体構造情報がある他のLysRタイプ転写調節因子とのアミノ酸配列の比較等により、MhbR(ATCC17616)の誘導物質認識能に関する知見を得て、実験を行う方針とする。 当初予定していた実験の一部が困難であることが判明したものの、MhbR(ATCC17616)の誘導物質認識能について順調に結果が得られており、また、同タンパク質の抽出法が改良できたことで、gtdAプロモーター領域との相互作用の解析がより行いやすくなっている。これらのことから、おおむね順調に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
MhbR(ATCC17616)はgtdAプロモーター領域に結合するが、結合する範囲には、LysRタイプ転写調節因子が認識する典型的な配列である、T-N11-Aを含む逆向き繰返し配列が存在しない。そのため、この結合に必要な塩基配列を明らかにすることで、LysRタイプ転写調節因子のプロモーター領域DNAの認識・結合機構に関する新規の知見が得られると考えられる。このことを目的として、gtdAプロモーター領域の塩基を置換して、MhbR(ATCC17616)との結合をゲルシフト実験等により解析することで、結合に必要な配列を調べる。 また、MhbR(ATCC17616)の誘導物質認識能について、類縁の他のLysRタイプ転写調節因子の誘導物質認識能に関する知見などを参考に、認識に必要な部位等を調べる。これらの研究により、MhbR(ATCC17616)による3-ヒドロキシ安息香酸分解遺伝子群の転写活性化機構について、まとまった知見を得ることを目指す。 また、改良したタンパク質抽出法を、MhbRと類縁のLysRタイプ転写調節因子であるCbnR(NH9)、TfdT(NK8)に適用することを検討し、これらの転写調節因子について、より精度の高いin vitro実験を行うための基礎とする。
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