研究課題/領域番号 |
21K05362
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
道羅 英夫 静岡大学, 理学部, 教授 (10311705)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | サナギタケ / コルジセピン / veA遺伝子 / 遺伝子破壊 / ウスチロキシン / Beauveria bassiana / 比較ゲノム解析 / レトロトランスポゾン / 冬虫夏草 / 子実体形成 / 二次代謝 |
研究開始時の研究の概要 |
冬虫夏草類には漢方薬として珍重されているサナギタケ(Cordyceps militaris)や生物農薬として利用されているBeauveria bassianaなどが存在するが、その子実体(キノコ)形成や二次代謝の制御機構はいまだ明らかになっていない。本研究では、研究代表者が単離した子実体形成能をもつB. bassiana(通常は子実体を形成しない)を用いて、冬虫夏草の子実体形成および二次代謝に関わる遺伝子を同定し、それらを制御する分子機構を明らかにすることを目的としている。これにより、冬虫夏草の子実体に存在する新規生理活性物質の探索や機能解析などの応用研究につながることが期待される。
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研究実績の概要 |
これまでに、サナギタケCordyceps militarisのveA遺伝子欠損株では子実体が形成されないこと、抗腫瘍活性をもつコルジセピンの産生量と生合成遺伝子の発現量が減少していること、マイコトキシンの1種であるウスチロキシン生合成遺伝子クラスターの遺伝子発現が低下していることを明らかにしている。しかしながら、これらは元からveA遺伝子を欠損していた株の性質であるため、実際にveA遺伝子の欠損によるものであるかどうかは不明であった。そこで、veA遺伝子破壊株を作成して、これらの性質の変化が本当にveA遺伝子の欠損によるものであるかどうかを解析した。その結果、6株のveA遺伝子破壊株が得られ、寒天培地で培養した菌糸の表現型を野生株と比較したところ、veA遺伝子破壊株の菌糸の色や質感等の表現型は、野生株よりもveA遺伝子欠損株に近いことが示され、新たに菌糸の表現型もVeAタンパク質によって制御されている可能性が示唆された。この表現型は光条件によって変化することも明らかになり、サナギタケでもVeAタンパク質の核への移行が光によって制御されている可能性も示唆された。また、veA遺伝子破壊株のコルジセピンおよびアデノシンアナログの定量を行ったところ、veA遺伝子破壊株のアデノシンアナログ産生パターンも、野生株よりveA遺伝子欠損株に近く、コルジセピン生合成もveA遺伝子破壊の影響を受けていることが明らかになった。また、恒明条件下ではveA遺伝子欠損の影響はほとんど見られず、Aspergillusで示されているように、恒明条件下ではVeAタンパク質の核への移行が阻害され、表現型の変化が起こらない可能性が示唆された。現在、veA遺伝子破壊株のRNA-seqを行っているところであり、veA遺伝子の破壊による遺伝子発現パターンの変化を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サナギタケのveA遺伝子破壊株の作成に成功し、その表現型が野生株よりも元からveA遺伝子を欠損していた株に近いことが明らかになった。このことから、コルジセピンやウスチロキシンの生合成がVeAタンパク質によって制御されているのではないかという再現性が確認できつつあり、現在進めている野生株とveA遺伝子破壊株の遺伝子発現差解析によってさらに証明することができると考えている。さらに、菌糸体の色という表現型にもVeAタンパク質が関与していることが明らかになり、遺伝子発現差解析によって網羅的に発現が変動する遺伝子を探索することにより、新たにVeAタンパク質に制御されている機能を明らかにすることができると期待される。また、サナギタケのゲノムデータベースも網羅的なアノテーションを行い、充実した情報が得られるデータベースとして構築を進めているところであり、完成すればサナギタケを材料とした研究を行う上で非常に役立つものとなる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
サナギタケのveA遺伝子破壊株の作成が完了し、RNA-seqを行っているところであるため、シーケンスが終わり次第コルジセピンとウスチロキシンの生合成遺伝子クラスターの遺伝子発現量の変化を調べるとともに、網羅的に遺伝子発現差解析を行い、veA遺伝子破壊によって遺伝子発現量が変化する遺伝子の解析を進める。これにより、コルジセピンとウスチロキシンの生合成遺伝子以外にVeAタンパク質によって制御されている遺伝子を探索する。RNA-seqは明暗条件でそれぞれシーケンスを行っているため、VeAタンパク質による遺伝子発現の制御が光依存的であるかどうかについても解析を行う。また、暗所では菌糸体の色がveA遺伝子欠損株およびveA遺伝子破壊株で黄色くなることが新たに確認されたため、光依存的に色素生合成遺伝子の発現が変動しているかどうかも解析する。さらに、コルジセピン、ウスチロキシンの定量を行い、これらの生合成がveA遺伝子破壊の影響を受けるかどうかの解析を進めるが、veA遺伝子破壊によってコルジセピン以外のアデノシンアナログの産生パターンが変化することも明らかになったため、その化合物の同定を行うとともにVeAタンパク質がどのように関与しているのかを検討する。これらの実験により、コルジセピンやウスチロキシン、色素等の二次代謝産物の生合成がveA遺伝子に制御されていることを直接的に証明する。また、サナギタケのゲノムデータベースの作成も平行して進めており、2023年度中の公開を目指している。
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