研究課題/領域番号 |
21K05413
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38040:生物有機化学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
根平 達夫 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 准教授 (60321692)
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研究分担者 |
松尾 光一 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (40403620)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 円二色性 / 量子化学計算 / 蛍光検出円二色性 / 絶対立体配置 / 立体構造解析 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では3つの方法で、分子の立体構造解析に利用できる汎用性の高い方法である円二色性(CD)および蛍光検出CDのさらなる発展を目指す。第1に、CDの理論計算を広く実験化学者が安心して利用できるように、目的の化合物系に合った方法選びの標準的なガイドラインを体系化する。第2に、研究代表者が開発した新世代FDCD測定装置を用いて、溶液中に夾雑物があっても狙った化合物の部分構造の立体構造を、ピンポイントで鋭敏に観測できる方法にまで発展させる。第3に、測定にVUVCDを適用することによりCDの観測領域を200 nm以下の短波長領域に拡大し、キラルアレンや非共役ジエンなどの化合物系にも展開する。
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研究実績の概要 |
分子の立体構造の観測法として汎用性の高い円二色性(CD)の適用範囲を、可能な限り広げることを目指して昨年度から研究を開始し、以下の3つの方向性で研究を推進した。第一に、昨年度中に申請者の研究環境で再構築した計算サーバーを用いて、量子化学計算を実行してCDスペクトルを予測した。共同研究としてオリーブの害虫であるオリーブアナアキゾウムシが産生する天然有機化合物の構造を絶対配置まで決定し、生理活性と合わせて報告した。第二に、蛍光検出円二色性(FDCD)理論を再定義するためにモデル分子を設計してライブラリー合成を進めた。FRETの関与を証明するモデル分子の基本構造は、キラルドナー部/リンカー部/アキラルアクセプター部、の3つからなるハイブリッド分子とした。長さのみ異なるいくつかのリンカーを合成したが、長いリンカーで深刻な溶解度の低下が見られたため分子設計を変更した。現在、炭化水素鎖の一部を酸素置換した新たな部分構造で、リンカーの長さを系統的に制御するためのプロトコル作成を進めている。第三に、真空紫外領域のCDスペクトルをキラルアレンの構造解析に応用するため、置換基の異なる様々なモデルアレンの合成を進めた。この合成ルートでは、鍵中間体のキラリティー制御が重要となるため、置換基の異なる5種類の第二級プロパルギルアルコールを合成し、申請者らの開発したキラル補助基を連結してジアステレオマーに誘導した。現在までにこれらのシリカゲルカラムによる分割に成功しており、X線結晶解析による絶対配置の決定を検討している。このキラル補助基による光学分割は、多くのプロパルギルアルコールに適用できる汎用性を備えた独自の方法として期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目標を、①量子化学計算に基づくスペクトルの理論的予測の際に目安となる計算条件のガイドライン作成、②蛍光検出円二色性(FDCD)理論の再定義、③構造解析にCDスペクトルを適応できる範囲を短波長領域にも拡大、という3つの命題に細分化した。 ①に関しては昨年度の計算環境を構築して以降、共同研究として、天然有機化合物のCDスペクトルを量子化学計算によって予測することにより絶対配置を決定した。量子化学計算では他に明瞭な結果を得られない例もあり、ガイドライン作成につながる結果は2例(うち1例は未発表)にとどまった。 ②については昨年度までに、FDCDの観測メカニズムを実験的に証明するために構築したモデル化合物の部分構造を、6-アミノヘキシル酸のオリゴマーと選定していた。連結するユニット数を変化させることにより部分構造の長さを制御する汎用的プロトコルを確立したが、今年度このプロトコルにより部分構造の伸長を実行したところ、残念なことに伸長に伴い溶解度が著しく低下することが判明した。これを受けて最近、炭化水素鎖の一部を置換した新しい骨格に変更し、両端にそれぞれアミノ基とカルボキシル基を持つユニットとして連結プロトコルを再構築しつつある。 ③については、先行研究を受けて昨年度からキラルアレンの系統的なライブラリー合成を進めている。先行研究では、真空紫外領域のCDの符号がキラルアレン部分の絶対配置を反映することを、いくつかの例で示した。今年度は現在までに、キラルアレンの合成で鍵となる5種類のプロパルギルアルコールを合成し、それぞれの鏡像体を純度良く得る方法として申請者の開発したキラル補助基を連結したジアステレオマーに誘導し、シリカゲルカラムによる分割に成功した。これらは現在までに、キラルアレンへの誘導には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
以下の3つの命題それぞれについて、引き続き、それぞれ以下のように研究を推進する。それぞれの命題を、可能な限り並行して進める。 [命題1]CDスペクトルを計算予測するためのガイドライン作成: 天然物化学者や合成化学者との共同研究を通して、様々な分子構造のCDスペクトルを量子化学計算し、分子構造と計算条件の関連性を蓄積する。時間のある限り、CDスペクトルの総説なども参考にしながら、化合物に応じた計算ノウハウを体系化する。 [命題2]FDCDで観測できる構造の明確化: FDCDの観測機構の一つとされているFRETを想定したモデル化合物系を系統的に合成してFDCDを精査し、「巨大分子内での局所構造」を帰納的に定義する。FRETモデルの基本骨格を、キラルドナー部/リンカー部/アキラルアクセプター部からなるハイブリッド分子とする。リンカー部は炭素鎖4-6程度の単純分子の連結とし、連結数によって長さを変えながらいくつかのモデルを合成する。これと並行して、単純な励起子キラリティー系としてtrans-シクロヘキサンジオールを選び、有機小分子においてFDCD = CDとならない系を系統的な合成モデルにより解析し、古典的なFDCD理論式を再定義する。 [命題3]VUVCDによる新しい絶対配置決定法の開発: キラルブロモアレン合成の鍵中間体であるキラルプロパルギルアルコールを光学分割する汎用的な方法として、キラルフタル酸の適用を検討する。得られたジアステレオマーのX線結晶解析により絶対配置を決定し、キラル補助基を除去してからキラルアレンへ変換し、申請者らの提案した方法論を適用してその妥当性を検討する。
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