研究課題/領域番号 |
21K05474
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38050:食品科学関連
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
増澤・尾崎 依 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (70614717)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 水溶性食物繊維 / イヌリン / DSS誘導性大腸炎 / 炎症性腸疾患 / 短鎖脂肪酸 / IBD / フラクトオリゴ糖 |
研究開始時の研究の概要 |
腸管に慢性炎症が生じる炎症性腸疾患(IBD)は,近年日本でも急激に患者数が増加している難治性疾患であるが,その発症の明確な原因は不明である。これまでの研究により,イヌリンやフラクトオリゴ糖などの難消化性の水溶性食物繊維には,整腸,免疫系の制御,腸管バリア機能の亢進といったプレバイオティクス作用が報告されている。それにも関わらず申請者らは,これらの摂取が大腸炎モデルマウスの病態を有意に悪化させることを見出した。本研究は,水溶性食物繊維の摂取がIBDを悪化させるメカニズムの詳細を明らかにして,水溶性食物繊維の適切な摂取法を提示するための基礎的な知見を提供することを目指す。
|
研究実績の概要 |
イヌリンの摂取は腸管内の浸透圧を亢進して軟便や下痢を誘導する。そこで高浸透圧に伴う炎症が大腸炎の病態を悪化させる可能性を検討するため,消化管内で水分保持作用を示すポリカルボフィルカルシウム(PC)をマウスに投与し,デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性の大腸炎に及ぼす影響を解析した。8週齢のBALB/c 雄性マウスに,セルロース(対照群),イヌリンあるいはイヌリンとPCを含む餌を給餌し, DSSにより大腸炎を誘導した。その結果,PCの投与は,イヌリン給餌によって生じる大腸炎モデルマウスの体重減少と大腸炎の病態の指標であるdisease activity index(DAI)スコアの悪化を,対照群と同程度にまで改善した。また組織学的解析の結果,PCの投与は,イヌリン給餌により悪化する大腸の組織構造や杯細胞の損傷を,対照群と同程度に抑制した。同様に,好中球の浸潤の指標となるミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性もイヌリン給餌で増加したが,PC投与によりその増加が完全に抑制された。さらに,PCはイヌリン給餌群でみられた炎症性サイトカインIL-1βの発現量の増大を抑制する傾向を示した。また,イヌリン給餌群でみられたタイトジャンクション構成タンパク質の発現量の減少もPC投与で回復する傾向を示した。次に,5%ポリエチレングリコール(PEG)4000溶液を3週間飲水投与して浸透圧性の下痢を誘導したマウスにおいて,浸透圧性の下痢がDSS誘導性大腸炎の病態に及ぼす影響を解析した。その結果,PEGの投与は大腸炎モデルマウスにおいて体重減少を引き起こし,下痢や血便を悪化させ,DAIスコアも悪化させた。同様に,大腸の組織構造や杯細胞の損傷もPEG投与により悪化した。これらの結果から,大腸管腔内の浸透圧の上昇が一因となりイヌリン摂取時に大腸炎が悪化すると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は,高浸透圧に伴う炎症や下痢が大腸炎の病態を悪化させる可能性を検討した。その結果,イヌリン摂取によって大腸内が高浸透圧状態になることが大腸炎を増悪させる一因となる可能性が示された。この結果は当初の計画では予想していなかったものであり,令和5年度に予定していた炎症性サイトカイン等に着目した解析においては十分な成果を得るには至らなかった。以上より,研究の進捗には若干の遅れが生じているが,炎症性腸疾患における水溶性食物繊維の役割について新たな知見が得られたことから,研究全体としては「概ね順調」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
炎症性腸疾患の研究のモデルとして,これまで本研究課題で使用してきたデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性の大腸炎モデルに加えて,トリニトロベンゼンナトリウム(TNBS)誘導性の動物モデルもよく用いられる。令和5年度は本研究でも新たにTNBS誘導性大腸炎モデルマウスを用いた解析を実施したところ,イヌリンの給餌はTNBS誘導性大腸炎を悪化させず,むしろ改善傾向を示すという,DSS誘導性の大腸炎に対する効果とは相反する予備的な知見が得られた。両モデルにおける大腸炎の発症機序には不明な点も多いが,炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎とクローン病の2疾患に大別され,DSS誘導性大腸炎はTh2優位で潰瘍性大腸炎に比較的近い病態モデルとされる。一方,TNBS誘導性の大腸炎はTh1優位でクローン病に近いモデルと言われる。そこで令和6年度は両モデルの違いに着目することで,イヌリン摂取がDSS誘導性の大腸炎を悪化させる機構の解明を目指したいと考えている。具体的には,TNBS誘導性の大腸炎モデルにおけるイヌリンの影響について再現性が確認された場合,遺伝子発現や代謝産物のプロファイルをDSS誘導性の大腸炎モデルと比較検討することを計画している。同時に,令和5年度に実施できなかった炎症性サイトカイン種の定量も実施する予定である。
|