研究課題
基盤研究(C)
農業上の重要病原体であるエマラウイルスは、フシダニ類媒介性の植物ウイルスであるが、その生物学的知見は極めて乏しい。本研究では、シソモザイクウイルスおよび媒介虫のシソサビダニを対象に、媒介性や虫体内増殖、移行等の解明、および植物へのウイルス感染がもたらすサビダニの増殖能等適応性の向上およびそのメカニズムの解明を通じて、エマラウイルス、宿主植物および媒介フシダニ間の相互作用の総合理解を目指す。
農業上の重要病原体でありフシダニ類媒介性のエマラウイルスは、その感染生理や媒介機構についてはほとんど解明されていない。実験的に比較的扱いやすい シソモザイクウイルス(perilla mosaic virus, PerMV)とシソサビダニを対象として、これらの解明を進める。我々はPerMVについて高知分離株の解析から10の分節RNAを有するとしてきたが、韓国の報告では7分節のみとされたことから、他県の分離株を解析したところ、すべて10分節を保持していた(千秋・久保田 2023)。また、PerMV感染株において、グリコプロテイン(GP)をコードするRNA2が消失する現象を報告してきたが、RNA2保持株と消失株とに対してシソサビダニによる媒介試験を行うと、RNA2消失株はシソサビダニによる媒介が全く認められなかった(久保田ら 2023; Kubota et al. 2024)。また、シソサビダニ無保毒虫の若虫および成虫にPerMVを獲得吸汁させて媒介試験を行うと、若虫期で獲得させた場合に効率よく媒介するとの結果が得られており(未発表)、これらの結果から、同じくブニヤウイルスであるオルソトスポウイルスのアザミウマ類媒介との類似性が想起された。このほか我々は、エマラウイルスのナシ葉退緑斑点随伴ウイルス(PCLSaV)が、ニセナシサビダニにより媒介され、ナシでは全身感染性を示さないがシロイヌナズナ等草本植物では全身感染しうること等を報告するとともに(竹山ら 2023; Takeyama et al. 2024)、PCLSaVの新規検出診断技術を開発した(Suzuki et al. 2023; 鈴木ら 2023)。また我々が報告したシキミ輪紋随伴ウイルスが国際ウイルス分類委員会により新種認定された(Kuhn et al. 2023; Digiaro et al. 2024)。
2: おおむね順調に進展している
シソサビダニによるPerMVの媒介試験について、RNA2の保持株と消失株とを用いた媒介試験系、およびシソサビダニの異なる生育ステージの虫による媒介試験系を構築し、それぞれから媒介性の有無を定量的に評価できるようになり、データが得られつつある。植物体内および虫体内のウイルス局在性解析の手法については昨年度に引き続き改良を進める。
今年度開発した媒介実験系を用いて、データを蓄積し、PerMVの媒介に必要なウイルスタンパク質の特定、およびシソサビダニ生育ステージの特定を行う予定である。虫体内のウイルス増殖性についても引き続き解析する。また、ナシ葉退緑斑点随伴ウイルスの媒介性および全身感染製についてもすでに得られたデータで論文を作成中であり、年度内の投稿を予定している。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 4件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 2件)
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