研究課題/領域番号 |
21K05688
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40010:森林科学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022) 大阪市立大学 (2021) |
研究代表者 |
名波 哲 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70326247)
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研究分担者 |
伊東 明 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (40274344)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 果実 / 鳥類 / 哺乳類 / 種子散布共生系 / 分光反射スペクトル / 分光反射率 / 種子散布 / 光環境 / 紫外線反射 / 光反射スペクトル / 紫外線 / 樹木 |
研究開始時の研究の概要 |
鳥散布型果実をもつ日本産樹木およそ150種について、果実の光反射スペクトル(色)を紫外線領域も含めて定量化し、その多様性を明らかにするとともに、進化プロセスを推定する。果実の色とその樹種の分布域の緯度や標高、結実の季節、生活形との関係を探り、果実の色の適応的意義を探る。また、同種の果実の色に地理的な変異や年変動があるか、調べる。さらに、果実の色や糖度の変化と鳥類の採食行動の対応関係を明らかにする。その知見に基づき、森林生態系の健全性と生物多様性を実現するための管理方法を提案する。
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研究実績の概要 |
動物被食散布型植物にとって,散布者の行動,感覚,嗜好に合致する形質をもつ果実をつけることは,個体の繁殖成功や集団の維持にとって重要である.種子散布者の中でも鳥類は,発達して視覚をもつため,果実の色は鳥類の誘引の成否を左右すると考えられる. 鳥類に対する果実の色の誘引効果を考える際には,ヒトの色覚による評価では不十分である.なぜなら,ヒトは三色型色覚を持つのに対して,鳥類は四色型色覚をもち,ヒトには認知できない紫外光を利用している可能性があるからである.紫外光領域を含めた色の評価のためには,果実が反射する300~700nmの範囲の分光反射率を分光光度計で測定し,色を数値化することが有効であると考え,測定を試みた.測定の結果,高木種の果実は全波長領域で分光反射率が高く,低木種の果実は赤色光領域のみ高い分光反射率であることが示された.また,高木種の果実は紫外線領域の分光反射率の高さが顕著であることが新たに分かった. 次に,野外において,異なる色の人工果実を用いた採餌実験の結果、十分なデータが集まった全ての鳥類種(ヒヨドリ、メジロ、ウグイス)で異なる色の果実の選択に有意差がみられ,鳥類が果実の色の嗜好性を持つことが示された.これは、鳥類の嗜好性が果実の色に対する一つの選択圧になることを示唆するものである. さらに,背の高い植物の果実の色は特定の色に限られる傾向があり,色の多様性は引くかった.背の高い植物群では,鳥類の色に対する嗜好性により特定の色の果実が選択された結果である可能性がある.一方、背の植物群では,果実の色の多様性が高かった.背の低い植物の果実には,鳥類の他に哺乳類もアクセスしやすい.多様な動物に採食されることに加え,2色型色覚のために色の識別能力が低く,また,夜間に活動する傾向がある哺乳類に採食されることが、果実の色にかかる選択圧を弱め,多様性が維持された可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、原著論文1報が受理された。また、国内学会で2件のポスター発表を行い、2件とも最優秀ポスター賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 自然環境下の果実の色は、果実が反射する光のスペクトルだけでなく、環境の太陽光スペクトルにも影響される。そのため、果実の色を評価する際には光環境の違いを考慮しなければならない。そこで、果実の反射スペクトルと生育地の太陽光スペクトルを用いて、生息地の光環境を考慮して果実の色を定量する。更に、果実の色と3つの生態的特性(生活形、北限、結実期)との関係を調べ、果実の色に影響を与える要因について調べる。 (2) これまでの研究により、鳥類の嗜好性が果実の色に対する一つの選択圧になることを示唆されている。ただし、果実の色の嗜好性は種によって異なっていた。観察された鳥類の森林内での行動範囲は種ごとに異なり、低木層を好む種と高木層を好む種が存在した。今後、鳥類が好む果実の色は、その鳥類種の行動範囲に多く存在する果実の色と一致する可能性を検証する。 (3) 平均植物高が高い分類群では、果実の色の多様性が低かった。これは、背の高い植物の果実は主に、4色型色覚と優れた視覚を持つ鳥類に採食されることに起因するのかもしれない。果実の色に対する鳥類の嗜好性により特定の色の果実が選択された結果であると考えた。一方、平均植物高が低い分類群では、果実の色の多様性が高かった。背の低い植物の果実には、鳥類の他に哺乳類もアクセスしやすい。多様な動物に採食されることに加え、2色型色覚のために色の識別能力が低く、また、夜間に活動する傾向がある哺乳類に採食されることが、果実の色にかかる選択圧を弱め、多様性が維持された可能性がある。果実の色の多様性の創出と維持には、散布者の色覚や嗜好性が選択圧として働いているという仮説を検証する。
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