研究課題/領域番号 |
21K05791
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
谷口 成紀 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 助教 (10549942)
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研究分担者 |
前田 俊道 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 教授 (20399653)
大久保 誠 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 講師 (60381092)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 3Dプリンタ / すり身 / 坐り制御 / 野菜粉末 / トランスグルタミナーゼ / 物性 / フードプリンティング / 坐り |
研究開始時の研究の概要 |
積層型3Dフードプリンタのインクとして魚肉すり身を利用するためには、魚肉が装置内で「坐り」を起こしゲル状に固まり吐出できなくなること、および、坐りを抑制しすぎて吐出した肉が固まらず立体造形を保てないことを防止する必要がある。そのため坐りを遅延させる技術が必要となる。野菜粉末をすり身に加えた場合に起こる「坐り遅延」のメカニズムを解明し、3Dフードプリンタで使える魚肉すり身インクの開発を行う。
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研究実績の概要 |
ホウレンソウ粉末を複数回80%メタノールで抽出し、溶媒を蒸留水に交換した溶液(抽出水)とその抽出残渣をアセトンで洗浄し乾燥させたもの(残渣粉末)を、それぞれスケトウダラすり身に混合して肉糊を調製し、5℃定温下での貯蔵弾性率の変化を観察した。すると、抽出水区は測定1.5時間後から24時間後まで貯蔵弾性率が増加し続けたが、残渣粉末区は貯蔵弾性率があまり変化しなかった。また、粉末等を加えない無添加区の肉糊は測定2.5時間後から24時間後まで緩やかに貯蔵弾性率が増加しつづけた。このような貯蔵弾性率の変化から、低温下では一定時間経過後に肉糊のかたさの増加が起こるが、ホウレンソウ粉末のメタノール抽出物は肉糊のかたさの増加を促進する方向に働き、抽出残渣は肉糊のかたさを増加させない働きがある事が示唆された。しかし、このような肉糊をかたくする働きがトランスグルタミナーゼ(以下TGase)の活性を調節したのかは不明であるため、ホウレンソウ粉末の抽出水および残渣粉末を加えた場合のTGase活性を調査する必要がある。 3Dプリンタのインクカートリッジに内径0.24~2.40 mmのノズルを取り付けて、すり身に対する加水割合が異なる肉糊を様々な圧力下で吐出したところ、すべてのノズル内径において吐出圧力が高くなるにつれ1秒間あたりの吐出量が増え、すり身重量に対する加水割合が大きいほど1秒間あたりの吐出量は大きくなった。しかし、加水割合が2.0から1.5の場合は滑らかに吐出されるが吐出された肉糊が積みあがらない、または、積みあがるに伴い垂れてしまった。加水割合が1.0~0.5の場合はなめらかに吐出されない場合があるものの、肉糊が積み上がり造形が保たれることが分かった。このためインクとして活用するには、肉糊調整時のすり身への加水割合は0.5~1.0が適切であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究期間半ばの退勤時に、申請者には過失の無い交通事故に遭ったことで定期的な通院治療が必要となり、それまでより研究のペースを落とさざるを得なくなったことから、当初の予定よりも進捗が遅れる事となった。また、本年度は育児休業を取得したことから、本年度実施予定であった内容を次年度まで引き続き実施する形で研究計画を変更することとなり、当初の計画から期間を延長することとなった。 今年度中に実施予定であった、魚類筋肉の坐り関連酵素の精製および精製酵素への野菜粉末添加による坐り抑制効果の確認は次年度行う形で変更する。 野菜粉末中の坐り抑制成分としてのポリフェノール類の同定・精製が遅れているが、ポリフェノール類を含むメタノール抽出物は肉糊に混合することで低温下での貯蔵弾性率の増加を促進すること、一方、ポリフェノール類をほとんど含まない状態である抽出残渣は貯蔵弾性率を増加させないことが明らかとなった。坐り抑制効果として、坐り関連酵素の働きを促進するまたは抑制するか、酵素の働き以外で肉糊のかたさの変化をもたらすか不明であるが、野菜粉末の抽出物および残渣がそれぞれ別の働きを有する可能性があるため、それらを別々に用いた坐り関連酵素活性の変化と、肉糊の物性変化を調査する必要が発生した。 肉糊を低温下に保っても吐出できなくなる現象においては、加水量および貯蔵時間を変更した場合の吐出量と吐出圧力の関係を明らかにできたため、次年度まで延長する形で、野菜粉末を加えた場合の肉糊における吐出量と吐出圧力の関係を調査し、3Dプリンタのインクとして必要な条件を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
酵素精製における収量低下に備えて、大量の魚類筋肉を用いたトランスグルタミナーゼ(以下TGase)の精製を実施し、精製した酵素に野菜粉末および既知のTGase阻害剤を加えた際の活性の変化を観察し、野菜粉末のTGase阻害効果を明らかにする。 野菜粉末中の坐り抑制成分として考えられるポリフェノール類について、坐り抑制効果が高い成分の同定を試みる。単独でのポリフェノールの分離・同定が困難な場合は、酸性ポリフェノールや中性ポリフェノールなどの分類により、坐り抑制効果がみられるものがあるかを確認する。一方で本年度には、ホウレンソウ粉末のメタノール抽出物の溶媒を蒸留水に変更したものを肉糊に混合した場合は、5℃定温下でも貯蔵弾性率が増加したことと、その時の抽出残渣を肉糊に混合した場合には、貯蔵弾性率が増加しなかったことを明らかにした。このことは、TGase活性への影響は不明であるものの、ホウレンソウ粉末のメタノール抽出成分は肉糊のかたさを増加させる、つまり坐りを促進させる働きがあり、対して、ホウレンソウ粉末の不溶性成分は肉糊のかたさを抑える、すなわち、坐りを抑制する効果を有する可能性があると考えられた。そのため、ポリフェノール成分そのものではなく、メタノール抽出物およびその抽出残渣での坐り抑制効果を調査する。 3Dプリンタインクを吐出する際に用いる種々のノズルと、肉糊を吐出する際の圧力、および、吐出される肉糊の量の関係が明らかとなり、肉糊の調整にはすり身に対して加水割合が0.5から1.0となる条件が適切なことが示されたため、ホウレンソウ粉末を加えた肉糊においてもその関係を明らかにする予定である。
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