研究課題/領域番号 |
21K05810
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分41020:農業社会構造関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
野中 章久 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (60355253)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 小規模農家 / 営農再開 / 直売所 / 地場産野菜需要 / 業務用需要 / 原発被災地 / 復興 / 大規模水稲法人 / 急速な農地集積 / 福島県沿岸地域 / 農家帰還率 / 農家就業構造 / 除染作業 / 人口動態 |
研究開始時の研究の概要 |
原子力被災地の復興は人口の推移が指標となる.これは多くの場合避難農家の帰還率と近いが,沿岸地域では他県から流入している除染作業員の定住も考慮しなければならない.また,工場進出が多く見られない沿岸地域に除染が新たな産業として位置付く可能性もある.本研究は地域の就業機会と農家の就業構造の分析を通じて福島県沿岸地域の長期的な就業機会の推移と人口の関係を明らかにする.そのために避難農家の就業状況,生活および子供の養育状況の把握により農家帰還率を予測する.また,除染作業へ農家の就業状況よび他県からの作業員の定住状況,およびコロナ禍の影響を明らかにし,除染が産業として永続的に定着するかを明らかにする.
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研究実績の概要 |
福島県浜通り(海岸沿い・原子力発電所近隣地域)における農家帰還や除染作業員に代表されるような他地域からの人的移動をを把握し、当該地域の持続的経済復興・地域振興の見通しを図ることを課題としている。当初、除染作業員を対象とした調査をはじめとした、外部からのどのような社会階層の人口が流入しているかと、農家帰還状況を把握して人口移動に注目した調査を予定していた。ところが、コロナ禍の影響により、不特定多数の人を対象とした面接調査が事実上不可能となり、また、面識のない人を対象とするため、リモートでの調査も不可能となった。このため、外部からの人口流入は職業別にとらえる方針から、移住者の調査に切り替えることとした。また、帰還農家の定着・営農再開の指標として先行研究がとらえていない農産物直売所の調査研究に重点を置くこととした。調査は南相馬市の「小高まるしぇ」を対象として実施し、出荷者一人当たり年間30万円程度の売り上げを実現していること等を把握した。また、地域内に県外からの移住者が増え、顧客となっていること、および、首都圏のレストラン等、業務用需要も大きくあることを把握した。直売所の展開は移住者や帰還農家の営農復帰(自給用生産を含め、被災前の姿への復帰)の指標として有効と考える。よって、以降、できるだけ多くの直売所の調査を実施するが、他地域との比較が必要となるが、本年度三重県にて複数調査を実施し、2022年3月に開催されたアジア農業経済学会にて「Farmers markets and local food businesses」と題し、個別報告を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本課題は、対象地域の農家や除染作業等に従事する者に対して、面接調査を実施して、対象地域における人口動態を把握することを基礎とする。そのためには不特定多数の人間を対象に調査する必要があるが、これがコロナ禍により不可能となった。 次に、除染作業のような流動性が高く、またプライバシーにかかわる事項が多い調査を予定していたが、この背景には、課題設定時の野中の人的つながりに依拠することが期待できたからである。この人的つながりは農研機構在職時に構築した、福島県担当者、除染関係の行政部局担当者、および東京電力担当者との関係である。とくに、東京電力の担当者との人的関係は、除染作業にあたる企業への協力要請のルートであり、課題立案時には当該担当者から協力の内諾を得ていた。しかし、コロナ禍の影響により調査を見合わせている間に、これら人的関係のあった者は人事異動により除染関係の業務からはずれることとなった。 上記の理由で対面による調査活動の基礎条件が大幅に変化し、またコロナ禍の影響により、調査活動が大幅に遅延した。2022年度の後半には、社会的な規制が緩和されたが、当初計画した除染関係に従事する者を対象とした調査は実施困難な状況となった。 このような状況の変化に対応するため、農産物直売所を対象として、地域内の農産物の生産・流通の状況を把握し、かつては自給野菜や地域内で流通する野菜が全く生産されていなかった被災地における農家の帰還と旧来通りの生活の再建と、直売所の利用者となる移住者の把握をもって、復興の指標とする方針に切り替えた。直売所をターゲットとする方針転換に伴い、他地域との比較対象を可能とするための予備調査を三重県で実施し、また、福島県浜通地域における直売所の動向に関する予備調査を実施した。 上記のような調査活動の基礎的条件の変化とこれに対応するための予備調査等の実施により遅延が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
野中(2018)にて避難農家の帰還率は4割弱程度としたが、実際に5割を超える地域は少ない。このため、被災地復興は人口動態として第一に農家帰還率は現状のまま推移するのか、第二に他地域からの移住があるか(当初は、除染作業者や復興関係の仕事に従事する者の定住があるかどうかという問い)が解明すべき課題となる。一方復興は人口だけではとらえられず、むしろ本質的には地域が「原発被災地」の質を揚棄するプロセスをとらえる必要がある。 コロナ禍の影響により、不特定多数を対象とした面接調査が困難となったことに対応する過程で、帰還農家が少数・多品目出荷する直売所を対象とした調査に重点を置いて予備調査と現地調査を実施したところ、コロナ禍以前(課題設定時)には帰還農家が出荷する直売所はほぼ見られなかった状態であったが、2022年度にはいくつかの直売所の展開がみられることが判明した。また、2022年に現地調査した「小高まるしぇ」の出荷者は、帰還した担い手専従者の夫を持つ妻が多く、新しい営農活動として小規模・多品目の野菜を体力に合わせて作っている実態が明らかとなった。また、購買者も地元の非農家に加え、他地域からの移住者が多いとことが明らかとなった。くわえて、レストラン等の業務用需要も大きく展開していることが明らかとなった。これらの要素はすべて他地域での予備調査で明らかになった小規模な生産者を出荷者とする直売所と共通する特徴である。そのため、直売所が象徴する小規模で地域的な野菜生産と消費が、原発被災地で展開していることを示しており、その他地域との共通性から「原発被災地」としての質の揚棄を指し示す指標として有効であると考えられる。今後は、同様の調査を展開し、被災地の人口動態予測と、復興の質的展開をとらえることとする。これにより、原発被災地の復興の新しく、かつ有効な指標を提示できると考える。
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