研究課題/領域番号 |
21K05894
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42010:動物生産科学関連
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
建本 秀樹 琉球大学, 農学部, 教授 (70227114)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ブタ体外受精 / 透明帯 / sulfatase / 多精子受精 / 先体反応 / ARSA / 脱硫酸化 / エラグ酸 / 抗ヒアルロニダーゼ活性 / ヒアルロニダーゼ / 硫酸化糖鎖 / 精子-透明帯間相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,精子SAPM1-ARSA複合体と卵透明帯との相互作用が受精機序に関与している点に着目し,その生理学的作用を制御する手法を介してブタIVF時に高頻度に起こる多精子受精を効果的に抑制することを目的として実施する。さらに,この精子SPAM1-ARSA複合体と透明帯硫酸化糖鎖との相互作用は,全ての哺乳類の受精時にも関与しており,他の哺乳類卵のIVF時の多精子受精抑制にも繋がる重要な研究であると考えられる。さらに,当研究室ではIVF由来胚のガラス化凍結試験も実施しており,体外で正常受精胚を多数作出できるIVF環境を整えることは希少な日本唯一の在来豚であるアグーの種の保存にとっても重要である。
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研究実績の概要 |
前年度の研究により,IVF培地へ添加したエラグ酸は,その強い抗ヒアルロニダーゼ作用により透明帯へ結合した精子の先体反応誘起を阻害させる機序を介して,多精子受精を効果的に抑制することが明らかとなった。したがって,今年度は,精子のSPAM1-ARSA複合体のARSAに着目し,媒精前の卵子に5 mU/mL sulfatase処理を施すことで,ARSAと卵透明帯の硫酸化糖鎖との結合を阻害し,効果的な多精子受精の抑制が可能か否かを検討した。 IVF後の受精パラメーターでは,10分間のsulfatase処理区で精子侵入率を低下させることなく多精子受精率が無処理区(52.1%)より有意に低下した(25.0%)。また,透明帯結合精子数がsulfatase処理で変化することは無かった。同様に,sulfatase処理を施した裸化卵の透明帯溶解に要する時間についても有意差は見られず,sulfataseによる多精子受精抑制効果は透明帯硬化によるものではないと判断された。次に,卵活性化に伴う透明帯構成糖タンパク質の変化について,sulfatase処理による相違があるか否かを調査した。その結果,経時的なプロテアーゼ消化試験では,両処理区ともに活性化処理直後から2.5時間までの間と比較し,3から4時間までの間に透明帯溶解に要する時間の有意な増加が認められた。同様に,ビオチン化標識ZP1 + ZP2バンドの検出強度にも両処理間に有意差はなく,それぞれ活性化処理3時間後に有意に減少した。すなわち,sulfataseの多精子受精抑制効果は,透明帯硬化や透明帯構成糖タンパク質の異常な変化によるものではないと確認された。 以上の結果から,ブタIVF時のsulfataseを用いた多精子受精抑制法としては,媒精前の裸化卵に対しての10分間のsulfatase処理が最も効果的であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブタに対して繁殖工学技術を有効に活用する上において,大きな妨げの1つとしてIVF時に高頻度に起こる多精子受精が挙げられる。特に,ブタは他の動物種に比べてIVF時の多精子受精が高率である。そこで,多精子受精を効果的に抑制する新しいIVF法を確立することは非常に重要である。 そこで本研究では,精子のSPAM1-ARSA複合体におけるARSAに着目し,媒精前の卵子にsulfatase処理を施すことで,ARSAと卵透明帯の硫酸化糖鎖との結合を低下させ,効果的な多精子受精の抑制が可能か否かを検討した。これまでの我々の研究により,未成熟ブタ卵の透明帯構成糖タンパク質には多くの酸性化糖鎖が存在しており,この糖鎖の酸性化は主に硫酸塩およびシアル酸の修飾によるものである。そして,酸性化糖鎖の割合は卵成熟に伴って増加し,精子侵入率および多精子受精率,透明帯への結合精子数,さらには透明帯に結合した精子の先体反応誘起率等の透明帯の精子受容能を高める作用に関係していることが明らかになっている。この卵成熟に伴って増加する透明帯構成糖タンパク質の硫酸化糖鎖を,IVF前に10分間の5 mU/mL sulfatase処理により脱硫化したところ,精子侵入率を低下させることなく,多精子受精率を有意に減少させることに成功した。また,sulfatase処理が,透明帯への精子結合数,透明帯の硬化,ならびに卵活性化に伴う透明帯構成糖タンパク質の変化に対して影響を及ぼすことはなかった。すなわち,透明帯へのsulfatase処理は,透明帯構成糖タンパク質の硫酸化糖鎖とARSAとの精子先体反応に起因していると推測されるため,引き続き精子-透明帯間の相互作用に注目した多精子受精抑制法を検討し,効果的かつ安定的なIVF法の実現を目指すことが重要であると考えられ,本研究を遂行するに当たって,研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本実験で最も多精子受精を抑制できた10分間のsulfatase処理区でも,その多精子受精率は25.0%であり,他の哺乳類のIVF時に観察されるような10%程度までの多精子受精率の減少には至らなかった。したがって,さらに効果的なIVF法を確立するためには,他の多精子受精抑制処理との複合処理を検討する必要性があると考えられる。令和3年度,我々は,強い抗ヒアルロニダーゼ作用を有するエラグ酸を利用し,精子ヒアルロニダーゼ活性を阻害することによる多精子受精抑制方法を検討した。その結果,精子ヒアルロニダーゼが精子-透明帯間の相互作用に関与しているとの興味深い結果が得られ,透明帯結合精子の先体反応誘起の抑制により,多精子受精が抑えられることが分かった。ヒアルロニダーゼ活性を有するSPAM1は,先体内に存在する分子シャペロンであるHSPA2を介して,ARSAと複合体を形成していることが,ヒト精子において明らかにされている。受精能を獲得する以前の精子ではSPAM1が先体表面に発現しており,受精能獲得の完了とともにARSAとSPAM1が部分的に反転してARSAが細胞膜表面に発現する。すなわち,過去の研究で我々が用いたエラグ酸は糖鎖を有さないため,エラグ酸処理は精子による透明帯の硫酸化糖鎖を介した糖鎖結合に影響を及ぼしたのではなく,SPAM1へのヒアルロニダーゼ阻害活性を通じてSPAM1とARSAの反転に何らかの影響を及ぼした結果,先体反応誘起が抑えられ,多精子受精が抑制された可能性が推測される。したがって,今後は,SPAM1-ARSA複合体におけるSPAM1のヒアルロニダーゼ活性とARSAが有する透明帯構成糖タンパク質の硫酸化糖鎖末端への結合作用を同時に制御することで,複合的な作用機序による多精子受精抑制処理を試行する必要があると考える。
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