研究課題/領域番号 |
21K05941
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
|
研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
翁長 武紀 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (90224261)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | 腸内分泌細胞 / オルガノイド / Xenin / 消化管ペプチド / 刺激分泌連関 / 内分泌細胞 / 胃オルガノイド / 小腸オルガノイド / バイオセンサー |
研究開始時の研究の概要 |
消化管ペプチドであるXeninの様々な作用が近年明らかにされてきたが、消化管内腔からその内分泌細胞を刺激する栄養素などの分泌調節因子は確定されていない。一方、消化管の内分泌細胞は粘膜上皮に散在しており、様々な細胞や神経系も混在していることから、その刺激分泌連関を調べるのは困難である。そこで、Xeninの内分泌細胞に富む細胞の集合体である消化管オルガノイドを開発し、蛍光共焦点顕微鏡下でのCa2+感受性色素による細胞応答や近接させたセンサー細胞の膜電流測定を利用した高感度測定系を開発してXeninの分泌刺激因子を細胞レベルで明らかにする。
|
研究実績の概要 |
近年様々な組織のオルガノイドが作製され、基礎研究から再生医療への応用まで幅広く利用されている。本研究では、胃十二指腸に局在するペプチドホルモンであるXeninについて腸内分泌細胞を用いてその刺激分泌連関を調べるために、ラットの消化管上皮細胞由来の腸内分泌細胞に富むオルガノイドの作製法を検討した。消化管上皮細胞のオルガノイドの作製には様々な成長因子や分化調節因子の抑制薬を使い、かつ経時的にその発達を調整しなければならないことがマウスやヒトで多く報告されている。本研究でも当初それらの文献の方法に倣って、研究開始時点ではまだ報告されていなかったラットの胃および十二指腸上皮細胞のオルガノイドの作製を試みた。 既報に準じてWnt3やR-spondin、Nogginなどの調節因子に加えて様々な成長因子(FGF10, FGF2, IGF-I等)を個別に添加した培養液を調整して上皮細胞を培養したが、培養液の組成や濃度を様々に調整しても成功しなかった。研究途中で、ラットの小腸オルガノイドの作製に成功した論文がZagorenら(2023)により報告されたのでその方法を再現することも試みたが、成功しなかった。 そこで既報とは異なり、ウシ胎仔血清を使わず、かつ最小限と考えられる分化調節因子のみで胃腸管上皮細胞の培養を行ったところ、十二指腸上皮細胞のスフェロイドの形成と一部が陰窩状に分化したオルガノイドを形成させることができた。しかし、ヒトやマウスで報告されているような突起を複数伸ばすほどの分化段階まで細胞の増殖が進まないので、この段階以降の分化調節を検討中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
消化管オルガノイドの培養にはWnt3やR-spondin, Nogginなどの基本因子の他に、胃の上皮細胞では線維芽細胞成長因子(FGF)10やガストリン、小腸の上皮細胞ではインスリン様成長因子(IGF-I)やFGF-2が添加される必要がある。そこで、当初はヒトやマウスの既報に準じてこれらの調節因子を添加した培養液を調整して上皮細胞を培養した。初めはウシ胎仔血清を10~20%含むDMEM/F12を基本培養液とし、そこにrecombinant Wnt3またはAffamin/Wnt3、rR-spondin、rNoggin, 上皮成長因子(EGF), TGF-β type-1受容体抑制剤A-83-01等を加えた培養液で培養した。また、培養日数によりニコチンアミドやROCK抑制剤のY-27632、GSK3抑制剤のCHIR 99021、p38-MAPK抑制剤SB202190や、胃上皮ではFGF-10と Gastrinを、また十二指腸上皮ではIGF-IとFGF-2を加えた。しかし、これらの既報に準じた方法ではラットのオルガノイド形成に至らなかった。さらに、個別の試薬から調整せずに市販のL-WRN溶液を培養液に加える新しい方法(Zagoren et al., 2023)も検討したが、これらの方法でもオルガノイド作製に成功しなかった。そこで、分化に最小限必要と考えられる分化調節因子のみに絞った組成の培養液に変えたところ、ようやくラット十二指腸上皮のオルガノイドを得ることができた。その時点までの実験方法では他種動物を使った既報の方法に囚われすぎたと考えられる。また、細胞の分化速度の点でも既報より日数を要したため、申請者の他の業務との日程調節上で思うように実験回数を増やすことができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後この方法の再現性をラット十二指腸で確認すると共に、Wntシグナル抑制剤のIWPとNotchシグナル抑制剤DAPT等を使って内分泌細胞への分化を促進する(Basak, 2017)ことで内分泌細胞に富むオルガノイド作製法を引き続き検討する。また、この培養法を胃上皮細胞の培養に適用して、同様な方法で胃上皮細胞のオルガノイド作製法を検討する。オルガノイドの細胞構成は、細胞を固定後した後whole mount法による免疫組織染色により確認する。 当初の実験計画では、消化管上皮細胞の管腔膜に相当するオルガノイドの内腔に分泌刺激の被検物質を注入してオルガノイドの外側へのホルモンの分泌を調べる予定であった。しかし、今回作製できたオルガノイドでは内腔に細胞が充満しているように見え、管腔が確保できているか確認する必要がある。管腔が維持されていないと内腔へ溶液注入はオルガノイドの破裂を引き起こす恐れがあり、ホルモンの分泌刺激連関を調べることができない。増殖した細胞が突起状に膨化して拡大し、内腔を埋め尽くさないようなオルガノイドを作製する必要がある。 十二指腸上皮の内分泌細胞に富むオルガノイド形成を誘導できたら、次は当初の予定に従ってXeninの分泌刺激連関を検討するためXenin受容体を高発現するセンサー細胞の検討を行う。ラット胃の平滑筋細胞を単離してCa2+感受性色素を負荷し、予め濃度設定したXenin溶液に接触させて蛍光反応を調べて標準の濃度反応曲線を作成する。次に、作成した内分泌細胞に富むオルガノイドの周囲にセンサー細胞を配置し、内腔に被検物質を注入した場合にオルガノイドから放出されるXenin量をセンサー細胞の蛍光発光により検出して刺激分泌連関を検討する。もし蛍光反応での分泌応答の感度が十分でなければ、パッチクランプ法によりセンサー細胞の応答を検出することも検討する。
|