研究課題/領域番号 |
21K05962
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
壁谷 英則 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10318389)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | Campylobacter / 野生動物 / 鹿 / 猪 / 病原性 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、全国的に野生鹿や猪の生息数が増加し、捕獲した鹿や猪の肉をジビエとして活用する試みが各地で行われている。その一方で、ジビエを原因とする食中毒事例も報告されているが、そのリスクについて、十分検討されていない。本研究では、ジビエのリスク評価の一環として、①わが国の野生鹿、猪に分布するCampylobacterの保菌状況を検討し、②新たな人獣共通感染性Campylobacter分離株について全ゲノムシークエンス解析を行う。③全ゲノムデータのcgMLST解析により伝播経路を考察するとともに、④病原関連遺伝子性状を網羅的に解析する。さらに、⑤病原関連候補遺伝子の機能解析を行う。
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研究実績の概要 |
令和4年度は、2022年10月から2023年3月までを対象とし、15道府県の鹿170頭、5県の猪41頭の直腸便を供試した。各糞便1gを9mlのPreston培地に接種し、微好気条件下、37℃および42℃で48時間増菌培養後、mCCDA寒天培地およびスキロー血液寒天培地で微好気条件下、37℃および42℃で48時間分離培養した。純培養したコロニーからDNAを抽出し、PCR法で菌種を同定した。さらにPCR法によりChの細胞膨化致死毒(CDT)遺伝子chcdtⅠ、chcdtⅡの保有状況を検討した。鹿、猪由来Ch分離株の病原性解析のための予備的な検討として、Ch標準株を用いて、ヒト腸管上皮細胞株(caco-2細胞)への感染実験を行い、経上皮電気抵抗(ter)値を計測した。 鹿の7頭(4.1%)、猪の20頭(48.8%)からそれぞれ27株、42株のCampylobacter属菌が分離された。分離株は全てChであった。鹿由来の22株(81.5%)、猪由来の17株(40.5%)はchcdtⅠ/Ⅱの両方を保有し、鹿由来2株(7.4%)、猪由来の9株(45%)はchcdtⅡのみを保有していた。令和4年度新たに、chcdtIBのみ陰性の株が鹿由来2株、猪由来10株、chcdtIA, IBのみ陰性を示す株が鹿、猪ともに1株、さらにchcdtIIA,IIB,IIC陰性株、chcdtIIB陰性株、chcdtIIA,chcdtIIC陰性株、chcdtIB, IIA, IIB, IIC陰性株、chcdtIB, IIB陰性株がそれぞれ1株づつ認められた。Ch標準株をcaco-2細胞に感染させたところ、MOI10で感染させ、48時間後にter値が65.1%まで減少したことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、あらたに全国の研究協力者から収集した鹿や猪の糞便を使ってCampylobacterの分離培養を行うと同時に、これまでに分離したC. hyointestinalis(Ch)分離株について毒素遺伝子(細胞膨化致死毒(CDT)遺伝子chcdtⅠ、chcdtⅡ)の解析、並びにヒト腸管上皮細胞株(caco-2細胞)への感染実験を行った。検体の収集は当初の見込み通り収集が可能であった。一方、分離株の病原性評価については、CDT遺伝子の解析において、従来認められなかった新たな保有パターンを示す株が複数認められた。以上から、本研究課題の研究目的に対して、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、引き続き、検体収集、Campylobacterの分離培養、生化学性状解析を継続して実施する。研究協力団体の協力を得て、広く地域的にこれまでに検討できなかった地域における検体を収集することに注力する。特に、全ゲノム解析による網羅的な病原関連遺伝子の探索を実施する株を増やす予定である。全ゲノム解析の成績を用いて、網羅的な病源関連遺伝子の探索に加え、core genome MLSTによる系統解析を実施する計画である。このため、令和4年度までに確立した全ゲノム解析の手法を広範囲に応用し、対象とする分離株の検体数を大幅に増やす計画である。 これらに加え、全ゲノム解析による網羅的な病原関連遺伝子の保有パターンを解析した株を用いて、ヒト腸管上皮細胞に対する病原性評価を本格的に実施する。令和4年度までに構築した感染実験系を実際に分離株に応用し、鹿、猪由来Ch分離株を用いて同様の検討を行い、ter低下をもたらすCh分離株のスクリーニングを行う。特に細胞障害性が高く、あるいは低く認められた株について、タイトジャンクション構成タンパク質に対する障害能を細胞障害試験、ならびにウェスタンブロット法などにより評価するとともに、責任遺伝子の推定を行う。以上の研究成果から、わが国の野生鹿や野生猪が保菌するChの人へのリスクを評価する。
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