研究課題/領域番号 |
21K05980
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42030:動物生命科学関連
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
向 正則 甲南大学, 理工学部, 教授 (90281592)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 卵形成機構 / 熱ストレス / オートファジー / 卵形成 / ストレス応答 / 生殖細胞 / 品質管理 / 細胞死 |
研究開始時の研究の概要 |
生殖細胞の生と死のバランスが、種の存続に重要である。しかし、この制御に関わる分子機構とゲノムDNAの品質を脅かす環境ストレスとの関係には不明な点が多い。本研究では、紫外線 (UV)と熱ストレスに注目し、これらのストレスがショウジョウバエの生殖細胞の形成機構に与える影響を解析する。ストレス耐性やストレスからの回復に関わる遺伝子の機能解析を試みる。これまでに生殖細胞中の転写の調節に関わることが知られているTRF2やストレス応答に関わることが報告されている転写調節因子p53、さらにこれらの遺伝子と相互作用する遺伝子を中心に機能解析を行い、生殖細胞の維持、品質管理に関わる分子機構の解析を行う。
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研究実績の概要 |
生殖細胞が環境ストレスに応答し、適応することが生物種の連続性に重要である。しかし、生殖細胞が環境ストレスにどのように応答するのか、不明な点が多く残されている。ショウジョウバエの卵巣が熱ストレスにどのように応答し、適応するのかを中心に、生殖細胞の品質管理や制御に関わる分子機構の解析を進めてきた。2021年度の研究から、熱ストレス(38°C)の一過的な処理により、卵形成過程が阻害され、数日後に回復することが明らかになった。熱ストレスによる卵形成の阻害、障害とその後の回復を、卵室の組織レベルで簡便に解析する方法、及び妊性の回復を評価できる実験系が完成した。2022年度の研究から、熱処理により卵巣中でオートファジーが誘導されることが分かった。2023年度の研究では、熱誘導性オートファジーが生殖細胞の品質にどのような影響を与えるか、また、卵巣における熱ストレス誘導性のオートファジーの制御の仕組みについて解析を進めた。生殖細胞の品質の解析の実験再現性を高めるために、熱処理条件(36℃)、遺伝子機能ノックアウトの条件を再検討した。オートファジーの制御に関わる上位キナーゼをコードするatg1遺伝子を中心にオートファジー関連遺伝子が熱処理後の妊性に与える影響を解析した。atg1遺伝子のノックダウンにより、熱誘導性の卵室崩壊が抑制されること、また、熱処理後に起こる妊性の低下がAtg1のノックダウンにより軽減されることが明らかになった。また、いくつかのオートファジー関連遺伝子のノックダウンにより熱誘導性の妊性の低下が回復する傾向が見られた。熱誘導性のオートファジーにより積極的に一部の卵室が排除され、妊性が低下することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の研究では、熱誘導性オートファジーが生殖細胞の品質にどのような影響を与えるか、また、卵巣における熱ストレス誘導性のオートファジーの制御の仕組みについて解析を進めた。その過程で、38℃の熱処理条件下で、熱処理後の妊性の回復プロファイルに対する遺伝子のノックダウンの影響を調べた結果、実験環境(季節、おそらく湿度などの別の環境要因)により、実験結果や成虫の致死率に対する影響が大きく変化する傾向が見られた。そこで、熱処理条件を36℃に設定し直した。また、遺伝子ノックダウンのタイミングを熱処理前に行うことで、安定したノックダウンの影響を解析できることが分かった。この実験条件の変更、改良に時間がかかったが、この条件を用いて、atg1, atg9, さらに現在atg5のノックダウン実験を進めている。これまでにatg1遺伝子のノックダウンにより、熱誘導性の卵室崩壊が抑制されること、熱処理後の妊性低下がAtg1のノックダウンにより回復することが明らかになった。また、atg9ノックダウンにより熱処理後の妊性低下が回復することが分かった。これらの結果から、熱誘導性のオートファジーにより積極的に一部の卵室が排除され、妊性が低下することが示唆された。熱ストレス下におけるオートファジーの機能の一端が明らかになった。研究の進捗に遅れが生じたが、改善に成功しており、進捗状況としては、概ね順調と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
Atg1のノックダウン実験から熱誘導性のオートファジーにより積極的に一部の卵室が排除され、妊性が低下することが示唆された。この結果を、さらに確認するために、オートファジーの阻害剤(3-MAなど)をショウジョウバエ成虫雌に予め投与し、熱処理後の妊性に対する影響、オートファジーの阻害により熱処理後の妊性が回復するかを調べる。投薬による生殖細胞のストレスコントロールへの応用が期待できる。活性型Atg1を強制発現することでオートファジーを活性化することができることが知られる。そこで、活性型Atg1を強制発現し、熱処理後の妊性に対する影響を調べる。もし、活性型Atg1の強制発現により、熱処理後の妊性が低下するならば、Atg1の活性が熱処理後の妊性の制御に十分な因子であることがわかる。オートファジーの活性レベルが熱処理後の妊性の制御に重要な役割をもつことが明らかになる。今年度改良した実験条件を用いて、Trf2のRNAiノックダウン実験を行い、妊性の回復に対する影響を調べる。基本転写因子パラログTrf2の下流で働く経路の一つの候補としてオートファジーの経路を予想している。転写因子p53は細胞の品質管理に関わることが知られている。p53突然変異体の解析から、熱処理後の妊性回復が変異体において低い傾向が見られている。Trf2, p53の下流で作用する オートファジー関連遺伝子を明らかにする。これらの解析を通じて、オートファジーを中心とした生殖細胞の熱ストレス応答や品質管理に関わる遺伝子制御機構の解明を試みる。
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