研究課題
基盤研究(C)
真核細胞の核輸送因子による新たなクロマチン機能の制御機構を解明し、高次生命現象におけるimportin αの機能の理解を目指す。本研究では、核輸送因子importin αのDNA結合の生理機能の解明を基軸に研究を進める。これにより、核輸送因子が細胞質から分子を運んで核膜孔を通過し、遺伝子発現制御につ関与するというダイナミックな細胞内情報伝達経路を明らかにする。
核輸送因子は、核を持つ真核生物の細胞の核膜孔を介し、タンパク質や核酸などサイズの大きな分子を核内外へと選択的に輸送する。核輸送因子の一つであるimportin αはタンパク質の核局在化シグナル(NLS: nuclear localization signal)を認識して核内へと運ぶ、輸送受容体として働く。本研究は、importin αによる新たなクロマチン機能の制御機構を解明し、高次生命現象におけるimportin αの機能の理解を目指す。これまでに、importin αがDNAに直接結合することを明らかにし、結合様式を特定した。importin αのDNA結合部位はimportin βとの結合に関わるIBBドメイン(importin β binding domain)内に存在し、塩基性アミノ酸に富むNAAT(nucleic acid asocciating troley pole domain)である。本研究ではこれまでにimportin αが他のDNA結合タンパク質とは異なるユニークな様式でDNAに結合すること、および、輸送基質をDNAへリクルートすることを実験的に示した。また、importin αの複数の相互作用を切り分けて機能を解析することに向けて、IBB domainの生化学的特性をアミノ酸レベルで詳細に分析し、各相互作用に重要なアミノ酸を特定した。加えてimportin αがDNA上で相互作用する分子の組合せにより結合の競合に差があることを突き止め、解析を進めている。また、importin αが細胞内で結合する分子群を多数同定した。令和5年度はimportin αの相互作用分子を機能およびNLSの有無により分類し、importin αの発現操作を行った際の転写量への影響を調べ、相互作用の意義を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、代表者らが新規に発見した核輸送因子importin αのクロマチン結合活性を基軸として、核輸送因子による新たなクロマチン機能の制御機構を解明し、高次生命現象におけるimportin αの機能の理解を目指す。令和4年度までに、importin αがDNA上まで運ぶ基質タンパク質の特定、基質タンパク質のターゲット探索機構の解明を目標にし、クロマチン機能の制御機構についてin vitroの実験系を確立し、importin αの機能を分子レベルで解析した。加えてimportin αの基質タンパク質を数千種類、同定することに成功した。また、importin αのDNA上での相互作用分子との結合様式をin vitro実験系を用いて解析した。令和5年度は多数同定したimportin αの基質タンパク質を機能や細胞内局在ごとに分類し、核局在化シグナル(NLS: nuclear localization signal)の有無を調べた。さらにこれらの基質タンパク質に対するimportin αファミリー分子の結合の相補性を解析した。また、importin αのノックダウンを行い、影響を受ける遺伝子群をRNA-sequence法を用いて網羅的に調べた。これらの結果を統合的に分析してパスウエイ解析を行い、分子ネットワークのモデルを構築した。その結果、複数の細胞活動にimportin αのクロマチン結合が関与する可能性を掴み、importin αの生理活性が見られる反応系を挙げることができた。今後はこれらの成果をもとに、引き続き、高次生命現象におけるimportin αの機能を明らかにしていく。
本研究は今後、高次生命現象におけるimportin αによる新たなクロマチン機能の制御機構の解明を目指す。これまでにimportin αが相互作用する分子を多数同定できており、またimportin αのクロマチン結合が関与する高次生命現象の候補を挙げることができている。令和6年度はこれらの成果をもとに、高次生命現象におけるimportin αの機能を明らかにし、成果をまとめて論文を執筆する。
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