研究課題/領域番号 |
21K06121
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43050:ゲノム生物学関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
板東 哲哉 岡山大学, 医歯薬学域, 講師 (60423422)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | コオロギ / 再生 / Toll受容体シグナル / 活性酸素 / オートファジー / エピゲノム / マクロファージ / Toll様受容体 / 昆虫 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトが手や足を失うと再生できないが、昆虫や両生類など多くの生物が付属肢を再生できる。申請者はコオロギの脚再生過程を解析し、マクロファージに発現するToll様受容体(TLR)が再生に必要であることを発見した。コオロギの脚再生において、TLRシグナルが標的遺伝子の発現をエピジェネティックに制御するメカニズムを解析することで、器官再生の促進機構とその普遍性を明らかにする。
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研究実績の概要 |
フタホシコオロギの後脚を脛節で切断すると、Toll受容体やスカベンジャー受容体を発現する昆虫マクロファージ(プラズマ細胞)が創傷部に遊走する。プラズマ細胞はサイトカインを産生して周辺の細胞の増殖を促し、再生芽を形成させる(Bando et al., Development, 2022)。プラズマ細胞の機能をより詳細に解析するため、プラズマ細胞が産生する活性酸素種(ROS)に着目した。ROSを産生する酵素DuoxやDuoxの補因子DuoxAに対してRNAiを行った個体の再生脚では、脚切断後5~6日において再生芽領域が肥大し、その後の幼虫期成長の大幅な遅延が見られた。Duox(RNAi)を行った再生脚では、プラズマ細胞の遊走が増加し、細胞増殖が亢進していた。また、Duox(RNAi)による再生芽の肥大は、Hippoシグナルの下流で働く転写コア口ベーターYorkieに対するRNAiにより抑制された。 Duox(RNAi)により再生芽が肥大するメカニズムをより詳細に調べるため、ROSとHippoシグナルを仲介するオートファジーについて解析を行った。オートファジー促進因子Sqstm1やオートファジー抑制因子RubiconのコオロギホモログをクローニングしてRNAiを行ったところ、再生能が低下する表現型が得られた。Duox(RNAi)による再生芽の肥大は、Rubicon(RNAi)によってより亢進したことから、ROS産生阻害による再生芽細胞の細胞増殖にオートファジーが関与していると考えられた。 肥大した領域の細胞集団を調べるために、コオロギの透明化や組織学的な解析を行った。コントロール個体の再生脚と比較して、Duox(RNAi)個体では、再生芽への血球細胞の遊走が著しく亢進し、未分化の細胞も増加しているようであった。今後、マーカー遺伝子の発現を解析して細胞の種類を同定していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Duox(RNAi)によりROS産生を低下させた再生脚では、再生芽が肥大するが、その機序は不明であった。現在までの解析から、ROSの産生を低下させると創傷部位へ遊走するプラズマ細胞が増加し、Hippoシグナル依存的に細胞増殖が亢進すること、またこのHippoシグナルによる細胞増殖の調節にオートファジーが関わっていることを明らかにできた。組織学的解析から、再生芽領域で増殖している細胞は血球や未分化の再生芽細胞と考えられ、今後qPCRやRNA-seqなどを用いて細胞の同定を行いたい。 ROS産生低下によりYorkieが活性化して細胞増殖を亢進するメカニズムに、オートファジーが関わることが示唆される結果が得られた。ショウジョウバエのホメオスタシスにおいても、ROSによるオートファジーの活性の調節が、Hippoシグナルを介した細胞増殖を制御することが報告されている。コオロギ脚再生においても同様のメカニズムが機能しているのかを今後検証していく。
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今後の研究の推進方策 |
ROS産生を低下させると再生芽の細胞の増殖が亢進して再生芽が肥大する。細胞増殖が亢進する細胞を同定するため、Duox(RNAi)個体の肥大した再生脚と、コントロール個体の肥大していない再生脚を組織学的に解析し、また様々な細胞のマーカー遺伝子に対するqPCRや免疫染色、比較RNA-seqなどを行っていく。 またDuox(RNAi)により実際にROS産生が低下しているかを、酸化により蛍光波長が変化するC11-bodipyを用いて検証していく。これまでの予備実験から、蛍光波長が変化する条件や核染色などの実験条件はほぼ確立できている。 オートファジーを介したROSによるHippoシグナルの活性調節において、Hippoシグナル下流の転写コア口ベーターYorkieが細胞増殖制御の中心的役割を担う。そこで、コオロギ脚再生におけるオートファジーとYorkieの制御関係を調べていく。ショウジョウバエでは非典型ミオシンDachsがオートファジーとYorkieを仲介している。コオロギにおけるHippoシグナルの活性化とDachsの役割はすでにpublish済み(Bando et al., 2009)であるが、オートファジーとの関連に着目してDachsの機能を再検討していく。
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