研究課題/領域番号 |
21K06142
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43060:システムゲノム科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
前田 智也 北海道大学, 農学研究院, 助教 (10754252)
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研究分担者 |
横田 篤 北海道大学, 農学研究院, 教授 (50220554)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 中枢代謝 / 適応的実験室進化 / 酸化的リン酸化 / 大腸菌 / コリネ型細菌 / 呼吸鎖 |
研究開始時の研究の概要 |
大腸菌とコリネ型細菌における様々な酸化的リン酸化抑制変異株を親株として、適応的実験室進化を行うことで、生育が改善した適応進化株を取得する。続いて、得られた進化株におけるゲノム上の変異の同定及び、代謝能の変化を解析することで、生育の改善をもたらす要因を特定する。こうした実験により、好気性細菌の酸化的リン酸化抑制時における生育と代謝の最適化戦略を明らかにする。さらに、進化実験により同定した変異を大腸菌のピルビン酸生産株、及びコリネ型細菌のグルタミン酸生産株に導入し、それぞれピルビン酸とグルタミン酸の生産試験を行うことで、有用物質の生産性や収量が向上することを実証する。
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研究実績の概要 |
本研究では、発酵産業に重要な大腸菌やコリネ型細菌の発酵生産効率の向上を目的として、中枢代謝が活性化している様々な呼吸鎖酵素欠損株の適応的実験室進化を行うことで、産業微生物の細胞増殖と目的物質生産のバランスを最適化させる方法を明らかにすることを最終目的としている。 大腸菌やコリネ型細菌において、酸化的リン酸化の阻害によるエネルギー欠乏の誘導が糖代謝などの中枢代謝を活性化させる一方、著しい増殖悪化を引き起こすことが先行研究から明らかにされている。昨年度は、大腸菌野生株MG1655株およびその呼吸鎖関連遺伝子欠損株として、NADHデヒドロゲーゼNDH-I の単独欠損株(Δnuo株)、2種類のNADHデヒドロゲーゼNDH-IとNDH-IIの二重欠損(ΔnuoΔndh株)、NDH-Iとシトクロムboオキシダーゼの二重欠損株(ΔnuoΔcyo株)、シトクロムboオキシダーゼとNADHとNADPHを相互変換するトランスヒドロゲナーゼSthAの二重欠損株(ΔcyoΔsthA株)について、それぞれ酢酸最少培地を用いた適応的実験室進化を行った。これらの変異株は酢酸を唯一の炭素源とした場合、生育できない、または著しく生育が阻害される一方、適応的実験室進化で得られた進化株はいずれも生育の回復もしくは生育速度の向上が確認された。今年度は、適応的実験室進化で得られた進化株20株(各株につき4つの独立進化系列から単離された進化株クローン)の全ゲノムリシーケンス解析を行い、エネルギー欠乏に適応するために必要な獲得変異を同定する事に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進化株の全ゲノムリシーケンス解析の結果、Δnuo株およびΔnuoΔcyo株由来の進化株ではそれぞれndhおよび、pdhRまたはcydAのプロモーター領域に変異が見られた。PdhRはピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDHc)の転写制御因子として知られ、NDH-IIの発現を抑制していることが先行研究より知られている。一方CydAはシトクロムbdオキシダーゼのサブユニットであり、シトクロムboオキシダーゼとはプロトン駆動力形成能が異なるアイソザイムの関係にある。これらのことから、Δnuo株およびΔnuoΔcyo株のように呼吸鎖のアイソザイムが残っている場合、その発現量を増大させることで、欠損した機能を補っていることが推察された。一方、ΔnuoΔndh株の進化株では、ClpAXPプロテアーゼの基質認識アダプターとして機能するシャペロンタンパク質ClpAをコードする遺伝子のプロモーター領域に共通して変異が見られた。先行研究ではClpXのターゲットとしてglycerol-3-phosphate dehydrogenaseやL-lactate dehydrogenaseなどキノンに電子伝達を行う酵素が同定されている。また、ΔnuoΔndh株の進化株で一番生育が向上した株にはclpA変異に加えてmalate quinone oxidoreductaseをコードするmqo遺伝子のプロモーター領域にも変異が入っていた。Mqoもキノンに電子伝達を行うことから、呼吸鎖のNADHデヒドロゲナーゼを欠損させても、キノンに電子伝達を行える酵素の活性を上昇させることでエネルギー欠乏に適応きることが示唆された。 このように、エネルギー欠乏へ適応するために必要な獲得変異を同定できたことから、研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、まず大腸菌進化株において同定した変異を親株に導入し、その変異がエネルギー欠乏に対する適応をもたらしているのか確認する。また、ΔnuoΔndhおよびその進化株においてglycerol-3-phosphate dehydrogenaseやL-lactate dehydrogenase、Mqoの酵素活性測定を行ったり、これらの遺伝子を破壊した場合の表現型を確認したりすることで、これらの酵素活性上昇がエネルギー欠乏へ適応できた原因であるのか明らかにする。一方、コリネ型細菌においては、NADHデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素として、NDH-IIと、リンゴ酸デヒドロゲナーゼMDHおよびL-乳酸デヒドロゲナーゼLdhAの3酵素しか保有していないが、ΔndhΔmdh株の進化株ではLdhAとキノンに電子伝達を行い、LdhAと逆反応を触媒するLldDの活性が上昇することを確認している。今年度ではこれらコリネ型細菌における進化株の全ゲノムリシーケンス解析も行うことで、大腸菌とコリネ型細菌の両方において、エネルギー欠乏への潜在的な適応能力の解明を目指す。また、コリネ型細菌におけるΔndhΔmdh株の進化株ではコハク酸などの有機酸生産量が増大することを確認しており、大腸菌やコリネ型細菌における呼吸鎖酵素欠損株の進化株を用いた発酵試験を行うことで、発酵生産能の向上についても検証を行う計画である。
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