研究課題/領域番号 |
21K06146
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
金保 安則 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00214437)
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研究分担者 |
船越 祐司 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (30415286)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 低分子量G蛋白質Arf6 / 炎症応答 / マクロファージ / インフラマソーム / 炎症 |
研究開始時の研究の概要 |
炎症応答は、感染や外傷によって引き起こされる反応であり、病原体の排除、損傷組織の修復に重要な機構である。一方で、過剰あるいは慢性的な炎症応答は、様々な炎症性疾患を引き起こす。それ故、炎症反応の適切なコントロールは、生体の恒常性維持において極めて重要となる。この炎症反応の中心として働く因子の候補として、本研究では低分子量G蛋白質Arf6に着目し、Arf6を介した炎症反応メカニズムの解明と、Arf6を標的とした新たな治療法の提唱を目指す。
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研究実績の概要 |
炎症応答は、病原体の排除、損傷組織の修復に重要な機構である一方、過剰あるいは慢性的な炎症応答は様々な炎症性疾患を引き起こす。本研究では、アクチン細胞骨格リモデリングや細胞内小胞輸送において中心的な役割を果たす低分子量G蛋白質Arf6の、炎症応答における機能解明を目的とする。炎症応答では、異物や内因性の刺激物質を貪食したマクロファージ中でインフラマソーム複合体が活性化され、IL-1βが成熟化・放出されることにより炎症反応が惹起される。さらに、活性化されたインフラマソームはそれ自体が細胞外に放出され、周囲のマクロファージに貪食され、取り込んだマクロファージでさらなるIL-1β産生を誘導し炎症を増幅させる。我々は令和3年度に、マクロファージ中のArf6がインフラマソームの細胞間伝搬に関与することを見出し、これにより、アレルギー性の気管支喘息が増悪することを明らかにした。令和4年度は、Arf6によるインフラマソーム細胞間伝搬のメカニズムを解析し、以下の知見を得た。 マウスより調整したマクロファージにASC speck(インフラマソーム複合体中のアダプター蛋白質ASCの凝集体)を添加すると、ASC speckはマクロファージに取り込まれ、インフラマソームを新たに形成し、IL-1βの放出を促進する。ところが、Arf6を欠損するマクロファージでは、ASC speckの取り込み(ファゴサイトーシス)と、それに伴うIL-1βの放出が顕著に抑制されていた。さらに、Arf6を活性化するGEFであるCytohesinファミリーの阻害剤SecinH3により、ASC speck添加によるIL-1β放出が抑制されていた。以上により、マクロファージ中のArf6は細胞外ASC speckにより活性化され、ASC speckのファゴサイトーシスを促進することにより炎症反応を増幅させることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Arf6の炎症応答における関与を主にマクロファージにおいて証明し、その分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。また、炎症性疾患の新たな治療標的としてArf6を提唱することを目指している。令和3年度は、マクロファージ特異的Arf6コンディショナルノックアウトマウスを用いたアレルギー性喘息モデルマウスの作出・解析を行い、Arf6がインフラマソームの細胞間伝搬に関与することにより気管支喘息を増悪させることを明らかにした。令和4年度は、そのメカニズムとして、Arf6がASC speckのマクロファージによるファゴサイトーシスを促進することにより、マクロファージでのインフラマソームの形成とIL-1β放出を誘導し、炎症応答を増幅させることを明らかにした。これらの成果は、炎症応答におけるArf6の機能と重要性を明らかにするものである。さらに、これら一連の反応におけるArf6上流のGEFとしてCytohesinファミリーを同定し、これを阻害することにより細胞外ASC speck依存のIL-1β放出を抑制できることを明らかにした。これは、Arf6シグナル経路が、炎症反応を抑制する際の標的となり得ることを示している。以上の研究成果は、本研究課題の目標達成に大きく近づくものであり、本研究課題は順調に進捗していると考られる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3~4年度の研究成果を基に、令和5年度は以下の解析を実施する。 1)ASC speckのファゴサイトーシスにおけるArf6のシグナル経路の解明:細胞外ASC speckによってArf6が活性化し、ファゴサイトーシスを誘導するまでのシグナル経路を明らかにするために、まず、ASC speckを認識するレセプターを同定する。そのレセプターがGEFであるCytohesinを活性化するメカニズム、および、活性化したArf6の下流でASC speckのファゴサイトーシスを誘導するエフェクター分子を同定する。 2)ASC speck放出におけるArf6の機能解析:Arf6は分泌・エキソサイトーシスにも関わることから、炎症誘導物質を認識し活性化したインフラマソームが、マクロファージから分泌される過程におけるArf6の機能を解析する。 3)炎症応答時にArf6が制御するその他のマクロファージ細胞機能の解析:Arf6はエンドサイトーシスや細胞内膜輸送、分泌、それらを介した細胞接着や遊走など、多様な生理機能を担う。それ故、Arf6は上記のインフラマソーム細胞間伝播の他にも、マクロファージのサイトカイン放出、遊走や浸潤、各種免疫受容体の取り込みなどに関わっていることが考えられる。これらについて検討するとともに、その際のシグナル経路、分子メカニズムを明らかにしていく。 4)特異的阻害剤を用いた個体レベルでの炎症応答の抑制:細胞レベルにおいて、Arf6の活性化因子Cytohesinを阻害することにより細胞外ASC speck依存のIL-1β放出が抑制されたことから、マウス個体レベルで喘息、炎症が抑制されるのかを検証する。また、1)~3)で明らかにしたシグナル分子を阻害する薬剤についても同様に検討する。これにより、Arf6やそのシグナル経路が、炎症性疾患を治療する上で有効な標的となりうることを証明する。
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