研究課題/領域番号 |
21K06147
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 貴紀 東京大学, 医科学研究所, 助教 (30707576)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 中心体 / PLK4 / 染色体不安定性 / 発癌 / 胚発生 / 発育不全 / 小頭症 / 中心体複製 / 中心体輸送 / 個体発生 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞内小器官の1つである中心体は、染色体(DNA)の均等分配、細胞運動、組織形成などに本質的役割を担う。中心体数の異常は癌の悪性度を高める主要因となる一方で、遺伝子変異等に伴う中心体の構造的または機能的異常は繊毛病または男性不妊の原因となることが知られている。従って正常細胞では細胞周期を通じて中心体複製は一度だけ起こる様に厳密に制御されるが、その分子制御機構に関して不明な点が多い。 そこで申請者は中心体複製に先行して起こる中心体蛋白質の中心体輸送機構を明らかにすることにより、中心体複製開始を制御する分子機構の解明を目指す。また同機構の破綻によって惹起される発育不全の病態機構の解明も目指す。
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研究実績の概要 |
中心体は微小管構造の母・娘中心小体とその周囲に集合した蛋白質複合体PCMによって構成される非膜型の細胞内小器官である。微小管重合の核となる中心体は細胞分裂期に双極性の紡錘体極として微小管重合ネットワークを制御することにより染色体の均等分配に本質的な役割を担う。中心体数の異常は染色体の不安定性(染色体の異数性、欠失、転座など)を惹起するため発癌および癌の悪性度を高める主要因となる。また中心体蛋白質の遺伝子変異に伴う中心体の機能欠損あるいは異常は小頭症、膿疱性腎症等の疾患発症に繋がることが報告されている。このため正常細胞では中心体数はG1期に1つ、S期に複製されて2つになる様に厳密に管理されるが、中心体複製の分子制御機構に関して現在でも不明な点が多く残されている。 中心体複製にはリン酸化酵素PLK4が中心的役割を担っており、中心体複製期(S期)に同分子は母中心小体の基底部に移行することにより新規中心小体(娘中心小体)の複製開始を担うことが知られている。中心体複製にPLK4分子は必須であるが、細胞質に分布する翻訳された直後のPLK4が中心小体複製の場となる母中心小体の基底部にどの様にして正確に輸送されるか、その分子機構は十分には解明されていない。 我々は中心体複製の時期に先行して起こる中心体複製の鍵分子PLK4の中心体移行機構の解明を試みた。その結果PLK4分子の中心体移行領域を特定し、またこの中心体移行領域に対して特異的に結合する分子を質量分析による網羅的探索を行った。更に同探索によって得られた分子の中からPLK4の中心体輸送に関わる分子を特定し、分子レベルでPLK4の中心体移行機構を詳細に解明した。 またPLK4および中心体輸送分子の異常が発癌あるいは胚発生期の発育不全を惹起することを示す知見も得ており、中心体輸送が生命の恒常性維持の全般に極めて重要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は中心体複製の本質的理解を深める目的で、中心体複製に先行して起こる同複製の鍵分子PLK4の中心体移行機構の解明を目指し研究を行った。そこでPLK4はN末端側からKinase domainと3つのPolo-box domainを持っているが、まずPLK4の系統的欠損変異体を作成してその中心体局在性の程度を免疫染色により観察して画像定量した。その結果PLK4分子の中心体移行領域を特定した。次にPLK4の中心体輸送機構を分子レベルで解明する目的で、中心体移行領域を細胞内に発現させた後に免疫沈降を行い同領域および同領域と特異的に結合する分子を精製し、これらを質量分析によって網羅的に同定を行った。その結果PLK4の中心体移行に関わる分子を複数同定することに成功し、これらの分子によって制御されるPLK4の中心体移行の分子制御機構に関しても解明した。またこれまでに実験で明らかにした細胞内動態情報を取り入れた中心体移行の制御機構に関する数理モデルを構築してシミュレーション解析を行った。その結果、中心体輸送を制御する分子機構の破綻によって癌の悪性度が高まることも新たに見出した。更に中心体蛋白質の遺伝子変異は中心体の機能的または構造的異常を惹起し、胚発生期において脳、腎臓等の組織形成の遅延あるいは異常を引き起こすことが知られている。そこでモデル生物を用いて胚発生における中心体移行機構の影響を経過観察した。その結果中心体移行機構の異常は初期発生において脳や眼などに極めて重篤な発育不全を惹起することを個体レベルで明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
中心体移行領域と特異的に結合する分子を質量分析により多数同定することに成功したためこれらのPLK4結合分子の中からPLK4の中心体輸送に関わるものを更に多く特定して同中心体輸送機構を体系的に理解することを目指す。またPLK4結合分子の中から中心体複製制御など中心体の恒常性維持に関わる分子を特定することにより、PLK4を介して制御される中心体複製機構を包括的に理解することも目指す。 またPLK4を初めとする中心体蛋白質の異常が小頭症などの発育不全を惹起することが分かったため、胚発生におけるPLK4の生理機能の解明とその破綻によって惹起される発育不全の病態機構の解明も今後進めていく。この目的を達成するため近位ビオチン標識法や免疫沈降を組み合わせた質量分析によりPLK4相互作用分子を探索し、その中からPLK4と協調的に胚発生過程を制御する分子を同定する。既にビオチン標識酵素とPLK4を融合させたコンストラクトやFlagタグPLK4を作成したため順次近位ビオチン標識法や免疫沈降を組み合わせた質量分析を実施して、PLK4結合分子を網羅的に同定する予定である。次に同定された分子の中でも質量分析検出器に高頻度で得られた分子から順番にPLK4との結合性、細胞内/個体内局在、遺伝子欠損による胚発生異常の有無などを調べていき、PLK4と共に胚発生過程の器官・組織形成を制御する分子を特定する予定である。
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