研究課題/領域番号 |
21K06158
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
川内 敬子 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (40434138)
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研究分担者 |
大谷 亨 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (10301201)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 抗がん剤 / p53 / 核小体 / 液液相分離 / p53 / DNAの高次構造 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、代表的ながん抑制因子p53の機能低下が引き起こす“異常な核小体ストレス応答”の分子機構を解明することで、がん再発の分子メカニズムを明らかにする。抗がん剤に対する細胞の応答は核小体の構造変化と深い関連があることから、本研究の成果はがん再発の理解につながり、新たな分子を標的とした医薬品の開発に直結する。
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研究実績の概要 |
がん抑制因子p53の機能欠損は、進行がんで高頻度に見られ、治療抵抗性の一因となっている。そのため、がんの再発を阻止するためには、p53の機能が欠損したがん細胞における抗がん剤の効果を増強する方法の開発が重要であると考えられている。多くの抗がん剤刺激は、核小体ストレスとなり、核小体内外の分子の動態を変化させ、p53依存的な細胞死を誘導することは知られているが、p53の機能欠損が核小体ストレスに及ぼす影響については、解析が進んでいなかった。そこで、本研究では、抗がん剤刺激に応答して変化する核小体内外の分子の動態に注目し、p53機能欠損細胞に対して抗がん剤の細胞障害効果を増強できる方法を開発することを目的とした。 これまでの研究で、抗がん剤刺激に応答して、核小体の一部が分離して形成される核小体キャップといわれる構造が、p53の機能欠損した細胞では早く崩壊することを明らかにしている。そのため、本研究の目的を達成するためには、核小体キャップの役割を明らかにする必要があると考えた。本年度は、抗がん剤により誘導される核小体に局在するリボソームDNA(rDNA)の損傷に対する核小体キャップ形成の役割を調べた。抗がん剤で誘導される核小体キャップの形成を阻害する新規に同定したrDNA結合化合物は、抗がん剤刺激で誘導されるrDNAの損傷を有意に減少することを明らかにした。現在、この化合物の核小体キャップの形成阻害の分子機構の解明とp53の機能欠損した細胞でみられる核小体キャップ崩壊の分子機構の解明を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗がん剤刺激で形成される核小体キャップは、p53が欠損した細胞では早く崩壊するため、核小体キャップの形成の維持は抗がん剤感受性と関連している可能性がある。このことを証明するために、核小体キャップの役割を明らかにする必要があるが、これまで核小体キャップの形成を阻害できる化合物はなかった。rDNA上で高頻度に形成される四重らせん構造(G4)と結合する化合物の中には、核小体キャップの形成を促進するものがある。そのため、rDNA由来のG4配列は標的になると考え、核小体キャップの形成を阻害するG4リガンドを探索し、同定した。核小体は膜のない構造体で、FC,DFC, GC領域の3層からなる。rDNAはいくつものrDNA結合タンパク質とともにFC領域に局在している。抗がん剤処理によりFC領域は核小体の外に分離して核小体キャップとなるが、このG4リガンド存在下では、rDNAと特定のrDNA結合タンパク質が解離し、FC領域の核小体外に分離することができなくなることが免疫染色法の結果から推察された。さらに、核小体キャップの役割を検証するために、DNA損傷マーカーであるγH2AXに対する抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)を行ったところ、抗がん剤で誘導されるrDNAの損傷はこのG4リガンド処理で抑制されることが示された。以上より、核小体キャップの形成を阻害するG4リガンドを同定して、核小体キャップの役割を示すことができたため、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
核小体キャップの形成を阻害するG4リガンドが、抗がん剤によるrDNAの損傷を抑制したという結果から、核小体キャップの形成が維持されると、持続的なrDNAの損傷が引き起こされる可能性が示された。抗がん剤に暴露されたがん細胞において、抗がん剤が分解・代謝されたのちに増殖を再開する場合、rRNAの転写を再開する必要があることを考えると、p53が機能欠損した細胞では、抗がん剤でrDNAの重篤な損傷が誘導されないように核小体キャップの崩壊を引き起こす機能が備わっている可能性がある。このことを確認するために、同定したG4リガンドが、rDNAとrDNA結合タンパク質との結合を阻害するのかをChIPアッセイで調べる。次に、rDNA結合タンパク質の変異体を発現させ、このタンパク質の核小体キャップ形成における役割を証明する。さらに、p53の機能欠損がrDNAのG4形成およびrDNAとrDNA結合タンパク質の結合に及ぼす影響を調べる。これまでの研究で、p53の機能欠損が転写因子NF-κBの恒常的な活性化を誘導することを証明してきたが、予備的実験からp53の機能欠損細胞の核小体キャップ崩壊には、転写因子NF-κBおよびアクチンが関与していることが示された。rDNAのG4形成およびrDNAとrDNA結合タンパク質の結合に対するNF-κBとアクチンの役割を解明し、p53機能欠損細胞に対して抗がん剤の細胞障害効果を増強できる新たながん治療標的を明らかにする。
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