研究課題/領域番号 |
21K06174
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
谷 時雄 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (80197516)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 核形態 / 放線菌 / 成人T細胞白血病 / 化合物 / ケミカルバイオロジー / YB-1 / 非翻訳性RNA / 高次エピゲノム |
研究開始時の研究の概要 |
一部の細胞の核は、分化や癌化に伴って大きく分葉化し、その形が変化する。核の形態変化がどのような仕組みで引き起こされるか、また、核の形の変化が遺伝子発現や核内クロマチンに及ぼす影響など、核の形が担う生物学的意義については不明なままとなっている。本研究では、核の分葉化を誘導する化合物2057を用いて好中球の分化における核の分葉化機構および成人T細胞白血病細胞(ATL)における核の分葉化機構を解明すると共に、核の形と高次エピゲノム制御との関連を明らかにする。さらに、核の形を正常型に戻す化合物を同定したので、その作用機作を解明し、未だに有効な治療薬の無いATL疾患の新規治療薬シーズ開発へと展開する。
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研究実績の概要 |
本研究は、放線菌培養上清から分離した核の分葉化を誘導する化合物2057を用いて、細胞分化や癌化の過程における核の形を変化させるしくみの解明、即ち、核の形が変わることで遺伝子発現や、核内クロマチン環境が受ける変化とその生物学的意義について解明することを目的としている。現在までに、分化に伴い核が分葉化する好中球細胞や、発症と共に核が分葉化する成人T細胞白血病(ATL)について、化合物2057処理によるHeLa細胞核の分葉化モデルとして提唱したPYTD 核分葉化modelで、好中球やATLにおける核の分葉化も説明できることを明らかにした。また、RNA結合タンパク質YB-1が核分葉化のキー因子であることを解明した。令和4年度では、核分葉化初期において遺伝子発現が大きく変動することがRNA-Seq解析で示された7種類のRNAについて解析を進めた。これらのRNAは全て機能未知の長鎖非翻訳性RNAであった。しかも、それらのうちRP11-6F2.5 および RP11-7F17.7 ncRNAは、好中球とATLの核分葉化初期に共に発現が大きく上昇することが示された。さらに、免疫共沈実験で、核分葉化に関わるリン酸化YB-1/γ-tubulin複合体に、RP11-6F2.5 ncRNAが含まれていることが示された。これらの結果は、RP11-6F2.5 ncRNAが核分葉化に密接に関与している可能性を示唆している。今後、siRNAを用いたノックダウンや過剰発現実験などを行い、RP11-6F2.5 ncRNAの核分葉化における機能を解明する予定である。また、分葉核を元の球状の正常核様形態に戻す化合物YG217及びYG258処理細胞についてRNA-Seq大規模発現解析を行い、YG217とYG258が異なる作用機作で核形態を元の形状に戻している可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核分葉化を示す好中球分化細胞、成人T細胞白血病細胞、化合物2057で処理したHeLa細胞の比較発現解析と、リン酸化YB-1及びγ-tubulin抗体を用いた免疫共沈解析から、核分葉化のトリッガーとなるリン酸化YB-1の中心体への局在化や活性化に関わる可能性が考えられる非翻訳性RNAであるRP11-6F2.5 ncRNAを同定できたことは、大変大きな研究進展であった。非翻訳性RNA(non-coding RNA)が核の形態形成に関わる可能性は、今まで示唆されたことがなく、大変興味深い。今後、ノックダウン解析や過剰発現系の構築を行い、RP11-6F2.5 ncRNAと核分葉化の機能的関連性を解明していく予定である。 申請時に提案した研究計画である成人T細胞白血病由来ED細胞株の分葉化核を正常核様形態に復帰させる化合物YG217及びYG258で処理した際の遺伝子発現パターンの変化を、次世代シークエンスによるRNA-Seqを用いて解析する実験を進めることができたことも、今年度の大きな研究進展であった。発現が上昇または減少する遺伝子群のインフォマティクス解析を行い、主成分分析(PCA)などから、化合物YG217及びYG258が、核の形態を球状にもどす同じような活性を持っているにも関わらず、その作用機構は異なる可能性が示唆されるなど、今後の解析展開が期待される結果を得ることができた。次年度、正常T細胞における遺伝子発現パターンとの比較検討を進めて、核分葉化阻害化合物YG217及びYG258が、2年生存率が15%以下で悪性度が高く、有効な治療薬の開発が多くの患者から待たれている成人T細胞白血病の治療薬シーズになり得るか、解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画②及び④のHeLa細胞核分葉化核の正常核復帰に伴う遺伝子発現変化及び成人T細胞白血病由来ED細胞株の分葉化核から正常核様形態に復帰した細胞における大規模遺伝子発現動態解析については、今後、正常HeLa細胞及び正常T細胞の発現パターンを次世代シークエンスによるRNA-Seq解析、もしくは既存のRNA-Seq解析データと比較解析して、正常細胞に類似した遺伝子発現パターンに戻っているか、詳細に検証する予定である。また、RNA-Seq解析から得られたRNA発現動態が正しいか、主要な遺伝子については、RT-PCR解析を行って検証する予定である。 昨年度、本プロジェクトを担当する学生にインフォマティクスの情報解析法を学ばせて、研究室独自でインフォマティクス解析できる体制を構築したいと考えて、関連学会が主催するインフォマティクス講習会に学生を参加させるなどしたが、残念ながら、データサイエンスを系統的に学んだことがないため、研究室独自で情報解析ができる体制は構築できなかった。インフォマティクス解析は今後大変重要な手法となるので、継続して講習会に参加させるなど、データサイエンスにたけた研究室人材を育てていきたい。 研究計画③の分葉核化における遺伝子/染色体配置の可視化解析については、染色体ペインティングに必要な染色体特異的に染色する蛍光標識プローブがかなり高価かつ手技にある程度のノウハウが必要なこともあり、次年度に持ち越しとなった。この解析手法をルーティンで行っている学外の研究室に指導を受けつつ、効率的に解析を進める予定である。一方、高次エピゲノム変化に関しては、ヘテロクロマチンマーカーであるヒストンH3K9ジメチル化に対する抗体やアセチル抗体などを用いた免疫染色解析により、核分葉化に伴い、核内クロマチンの修飾状態が大きく変化することが示唆されたので、更に解析を進めていく予定である。
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