研究課題
基盤研究(C)
成体の組織幹細胞においては、幹細胞の分化/自己複製を決めるのは確率論的なモデルで説明できることが示唆されている。申請者は、卵母細胞は自己複製しないものの、未分化な基底状態からある方向へ分化するという意味で組織幹細胞に近い挙動をするのではないかと考えた。本課題では、原始卵胞の活性化が確率論的モデルに当てはまるのかを検証する。さらに、原始卵胞活性化の際に起こる卵母細胞内の一連の反応を成長開始と休眠状態の解除のふたつに切り分け、詳述することを目指す。申請者の観察では卵母細胞の成長が先んじて始まることから、この経路を明らかにすることで原始卵胞活性化の「引き金」の正体に迫る。
哺乳類の卵巣中では、未熟な卵母細胞は原始卵胞と呼ばれる構造中で休眠している。出生後、原子卵胞は少しずつ活性化されて成長を開始する。本研究課題では、原始卵胞の活性化は確率論的に決定されているのではないかという仮説について検証することを目的としている。原始卵胞の活性化頻度について基礎的な知見を得ることを目的に、組織透明化法とライトシート顕微鏡を組み合わせて活性化がどのような時空間的ダイナミクスを示すのかについて観察を試みた。卵母細胞の活性化の指標として既存のCreマウス系統と蛍光レポーターマウスを交配し、活性化後にのみ蛍光を発する遺伝子改変マウスを利用することとした。試料の調整は予定通り準備したものの、不測かつ長期の顕微鏡の不具合によりイメージングおよび解析が困難な事態となった。一方で、シングルセルトランスクリプトミクスの卵母細胞の亜集団について差次的発現遺伝子(DEG)の同定、擬似時系列解析、エンリッチメント解析を進めた。WNT抑制変異(Wls cKO)マウスでは、活性化の刺激を受けて卵母細胞が成長を開始するが、未分化状態を保っている。そこで本解析では、卵母細胞の未分化な状態からの逸脱に関わる経路を分離できるツールとしてWls cKOマウスを利用した。疑似時系列解析では、卵巣の組織学的な所見から推察されるように、野生型マウスとWls cKOマウスでは異なる卵母細胞活性化の系譜を辿ることが明らかとなった。未分化卵母細胞に特異的な複数のDEGについては免疫染色にて活性化前後で発現量が変動することを確認した。エンリッチメント解析では、未分化な卵母細胞クラスタ特異的に翻訳関連のタームが検出され、より詳細な解析が進行中である。
3: やや遅れている
前年度までに固定卵巣対して組織透明化法とライトシート顕微鏡を用いるホールマウント解析法の条件検討を完了していた。実験系に合わせて遺伝子改変マウスの交配を進めたものの、顕微鏡の突発的な不具合により遺伝子改変マウス由来の貴重な組織試料を未解析のまま廃棄する必要が生じ、長期間にわたって解析が困難となった。その間、並行して進めるべき実験テーマであるシングルセルトランスクリプトミクスについては予定していた解析を進めており、原始卵胞中の卵母細胞が活性化する過程について詳述するためのデータを着実に収集した。疑似時系列解析では、野生型マウスとWls cKOマウスについて休眠状態から活性化状態への移行を捉えることに成功した。休眠卵母細胞特異的な発現をする複数の遺伝子については再現性を確認できたものの、活性化時に一過的に発現上昇するような因子の同定には至っていない。解析ソフトウェアのバージョン間の整合性を取るために、一部の解析については再解析が必要であり、本年度の研究の達成度はやや遅れていると判断する。
レポーターマウスの交配を進め、出生後のマウスから経時的に卵巣のサンプリングを行う。免疫染色と組織透明化により卵母細胞全体と活性化後の卵母細胞をそれぞれ検出可能としたホールマウント卵巣を、修理が完了したライトシート顕微鏡での観察へ供する。イメージングしたデータは三次元的に再構築して卵母細胞の時間空間的なダイナミクスを明らかにする。第一に、各サンプリング時点で休眠中と活性化中の卵母細胞の数を把握し、原始卵胞活性化が単純な確率論に従うのかを数理モデルの作成により検討する。第二に、未分化な、あるいは活性化直後の卵母細胞の三次元分布を根拠として、活性化が周囲の微小環境に依存する可能性について検証する。同時に、シングルセルトランスクリプトミクスの解析では、引き続きエンリッチメント解析の結果を中心に卵母細胞活性過程の詳述を試みる。活性化時に発現上昇する遺伝子について特に擬似時系列解析のドライバー遺伝子を中心に再探索を行う。現状では卵母細胞の各クラスターについてわずかなマーカー遺伝子のみ得られているが、再解析により遺伝子数は増加する見込みである。この結果を利用して、休眠状態と活性化状態のハブ遺伝子の同定を試みる。有力な候補が得られた場合はその発現をプロット上もしくは免疫染色等の方法で確認し、必要に応じて阻害剤/活性化剤を用いた卵巣培養系にてその効果を確認する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
Nature communications
巻: 13 (1) 号: 1 ページ: 7860-7860
10.1038/s41467-022-35465-1
Development
巻: 148 号: 9
10.1242/dev.198846
https://www.riken.jp/press/2021/20210528_1/
https://www.riken.jp/pr/closeup/2021/20210906_1/index.html