研究課題/領域番号 |
21K06203
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44020:発生生物学関連
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
小柴 和子 東洋大学, 生命科学部, 教授 (30467005)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 心臓発生 / 転写因子 / 形態形成 / 形態進化 / マウス / Pitx2 |
研究開始時の研究の概要 |
脊椎動物は進化の過程で単純な1心房1心室の心臓から2心房2心室の心臓へと形態を複雑化させていった。このような心臓の形態変化は、心臓の発生過程においても認められ、心房と心室の区画ができた後に心房中隔と心室中隔が形成されることにより、2心房2心室の心臓が形作られる。比較発生学的な解析から心室中隔の形成には転写因子Tbx5の左心室への局在が重要であることが明らかになっている。心房では、転写因子Pitx2が左心房に局在していることから、本研究ではPitx2異所性発現マウスを用いて、Pitx2の極性をもった発現が心房中隔形成および心臓機能に与える影響を明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
Pitx2は左心房に極性をもって発現する転写因子であり、同様に左心室に極性をもって発現する転写因子Tbx5が心室中隔形成に重要な役割を担っていることから、Pitx2の極性をもった発現も心臓の形態形成に何らかの役割を担っていると考えられた。そこで、Pitx2の極性をもった発現が中隔形成や心臓機能に与える影響を明らかにするために、Pitx2を心臓全体に発現するマウス(Pitx2異所性発現マウス)を作出し、解析を行ってきた。Pitx2異所性発現マウスは胎生12.5日目頃に致死となり、心臓の形態として、房室管およびその内部の心内膜床の形成に顕著な異常が認められた。さらに、心房中隔の形成不全や右心房の個性が阻害される表現型が認められた。このような心臓の形態異常が、どのような遺伝子の発現変化によって引き起こされるのか詳細に調べるために、シングルセルRNA-seqを行い、マーカー遺伝子の発現をもとに細胞種を同定し、細胞種ごとにPitx2異所性発現心臓において発現が変化している遺伝子の探索を行った。その結果、Pitx2異所性発現心臓には特徴的な内皮細胞の集団が存在することが見出され、さらには心筋においてWntシグナルに関与する遺伝子の発現が大きく変化していることが明らかになった。この結果はPitx2がWntシグナルを介して内皮や心内膜床の形成を制御しながら心房中隔形成に関与し、哺乳類の二心房二心室の心臓形成において重要な機能を果たしていることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
心臓特異的に遺伝子組換え酵素Creを発現するマウスとCre依存的にPitx2とEGFPを発現するマウスとを交配して、心臓全体にPitx2およびEGFPを発現するマウス(Pitx2異所性発現マウス)を作出した。Creマウスをコントロールとして、10.5日胚心臓を用いてシングルセルRNA-seq解析を行い、マーカー遺伝子の発現をもとに、心筋、内皮、心臓前駆細胞等の細胞種に分け、それぞれの細胞種において発現が変化している遺伝子を探索した。その結果、Pitx2異所性発現胚のEGFP陽性の特殊心筋では洞房結節マーカー遺伝子群(Hcn4, Tbx18, Shox2, Smoc2)の発現が著しく減少していることを見出した。さらに、EGFP陽性の心筋ではサルコメア因子(Tnnt2, Actc1, Myl7など)の発現が著しく亢進しており、Pitx2が心筋分化を制御している可能性が見出された。心房中隔形成では、後方二次心臓領域の心筋分化のタイミングが重要であることから、Pitx2異所性発現胚では後方二次心臓領域での心臓前駆細胞の未分化性が失われることで心房中隔形成が抑制されている可能性が考えられた。加えて、Pitx2異所性発現胚のEGFP陽性の心筋ではWntシグナル阻害因子であるSfrp1, Dkk3の発現が亢進していた。このことから、心筋でのWntシグナルの阻害がPitx2異所性発現心臓で認められる細胞外基質の過剰な蓄積に影響している可能性が考えられた。 このように、心筋細胞を中心に発現変動している複数の遺伝子が同定されており、その機能からPitx2の異所性発現による形態変化との関連が予想され、計画は順調に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
シングルセルRNA-seq解析から見出された複数の遺伝子について、コントロール胚とPitx2異所性発現胚とで発現量をqPCRで比較するとともに、in situハイブリダイゼーションを行うことにより、発現様式の変化を詳細に調べる。また、シングルセルRNA-seq解析から推察された洞房結節および後方二次心臓領域の心臓前駆細胞の状態について各マーカーを用いた検証を行う。また、Pitx2と発現変動した遺伝子の関係を調べるために、各遺伝子の上流解析を行う。さらに、心筋初代培養系を用いてsiRNAによる機能阻害実験を行うことにより、遺伝子発現変化が二次的なものではなくPitx2の発現量によるものであることを検証する。これらの実験結果を取りまとめ論文化する。
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