研究課題
基盤研究(C)
軸索と樹状突起からなる神経細胞の極性は、神経回路が正しく構築され、機能するのに必要である。複数の樹状突起で受容された情報を統合し、1本だけ存在する軸索に伝達し、シナプス後細胞に出力するという、一方向性の情報伝達は、神経科学の基本原理と考えられてきた。申請者は、Perry病の原因遺伝子Dctn1の変異型を組込んだ遺伝子改変マウスから調製した培養神経細胞が、軸索を複数持つことを見出した。この現象から出発して、軸索を1本に限定する仕組みを解明すると共に、軸索を複数持つ神経細胞の回路では、動作機構がいかに変化し、変性が生じるかという観点から、脳内情報処理と神経病理の新原理を発見したい。
Perry病は、TDP-43病理を示す希少性パーキンソン症候群である。原因遺伝子産物DCTN1は、ダイニンモータを制御するアダプタ、ダイナクチン複合体の最大サブユニットである。Perry変異近傍での別の変異により、運動神経疾患が生じること、またDCTN1が筋萎縮性側索硬化症(ALS)のリスク因子でもあることから、DCTN1は種々の神経変性疾患に共通の発症機構に関与する可能性が高い。Perry病は希少疾患ながら、発症機序の解明が孤発性の多くの疾患原因の特定に繋がると期待されている。Perry病患者は極少数であり、病態解明にはモデル動物確立が急務とされ、DCTN1 (p.G71A)変異(当グループが国内で初めて発見したPerry変異)を導入したノックインマウスを作成した。意外なことに、本マウスから調製した初代培養神経細胞が、軸索を複数持つことを見出した。そこで、変異型DCTN1がTDP-43凝集化を惹起する構造基盤を明らかにしながら、何故、軸索が複数生じるのか、分子機序の解明を目指している。Dctn1(G71A)マウスのホモ接合体の作出に成功し、肉眼レベルの脳形態変化、パーキンソニズムと衝動制御障害等の精神症状を検出できた。DCTN1(G71A)とTDP-43の相互作用を精査し、構造変化がTDP-43凝集化に繋がる仕組みを調べる一方、ダイニン調節因子で細胞極性に関係すると指摘されてきた分子群の機能制御の観点から、ダイナクチンとTDP-43の機能解析を進めている。Dctn1(G71A)神経細胞が軸索を複数持つ現象の証明として、今年度は、Golgi染色を行い、Perryマウス脳の神経形態・極性と層構造、神経回路パターンを調べ、それぞれのレベルで異常を検出した。Perryマウス脳で、神経回路、その動作機構と個体行動がいかに変化し、神経変性に至るか、解析を進めたい。
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