研究課題/領域番号 |
21K06205
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44020:発生生物学関連
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
河田 純一 福岡大学, 医学部, 助教 (00312207)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 神経極性 / 軸索 / ダイナクチン / ダイニン / TDP-43 / Perry病 / Perry症候群 / 樹状突起 / 神経細胞 / モータータンパク質 |
研究開始時の研究の概要 |
軸索と樹状突起からなる神経細胞の極性は、神経回路が正しく構築され、機能するのに必要である。複数の樹状突起で受容された情報を統合し、1本だけ存在する軸索に伝達し、シナプス後細胞に出力するという、一方向性の情報伝達は、神経科学の基本原理と考えられてきた。申請者は、Perry病の原因遺伝子Dctn1の変異型を組込んだ遺伝子改変マウスから調製した培養神経細胞が、軸索を複数持つことを見出した。この現象から出発して、軸索を1本に限定する仕組みを解明すると共に、軸索を複数持つ神経細胞の回路では、動作機構がいかに変化し、変性が生じるかという観点から、脳内情報処理と神経病理の新原理を発見したい。
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研究実績の概要 |
Perry病は、パーキンソニズムとTDP-43異常凝集体を示す希少性かつ遺伝性神経変性疾患である。原因遺伝子産物DCTN1は、ダイニンモータを制御するアダプタ、ダイナクチン複合体の最大サブユニットである。Perry病変異部位の近傍での別の変異により、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に似た運動ニューロン疾患が生じることからも、DCTN1は種々の神経変性疾患の発症機構に関与する可能性がある。Perry病患者は極少数であり、病態解明にはモデル動物確立が急務とされたため、Perry型変異のDctn1(G71A)ノックインマウスを作成した。意外なことに、このマウスから調製した初代培養神経細胞が、軸索を複数持つことを見出した。そこで、DCTN1変異体がTDP-43凝集体形成を誘導する仕組みを明らかにすると共に、何故、軸索が複数生じるのか、解明を目指している。 Dctn1(G71A)ノックインマウスは、発症前に特徴的な神経症状を示し、肉眼レベルでの脳構造、神経回路パターンにも異常があることを見出した。そこで、Dctn1(G71A)が神経回路網の形成機構に如何に影響を及ぼすかについても検討中である。本年度は、神経ガイダンスの分子機構が如何に正常時に機能して脳構造形成を制御し、かつ病的状態に如何に寄与するのか、概観した総説論文を出版した(Protein & Cell誌)。 一方、Dctn1(G71A)神経細胞が軸索を複数持つ現象の厳密な証明として、初代培養系で、軸索マーカーTau1抗体、樹状突起マーカーMAP2抗体を用いて免疫染色を行っている。1個の神経細胞が、軸索を複数持つ上に、軸索と樹状突起の存在様式が特徴的であったが、これらの表現型には、発生時期に特異性があることが判明した。 軸索を複数持つ神経細胞から成る脳では、回路パターンと動作機構がいかに変化し、神経変性に至るか、更に解析を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、Perry病マウスモデルを出発点として、神経極性形成と神経変性の仕組みに迫るものである。本年度では、変異型DCTN1がTDP-43凝集体形成を惹起する分子機構を解析した。TDP-43内部の異常凝集を抑制する領域を同定することが出来た。DCTN1 (G71A)マウスに関しては、ヘテロ接合体(Perry病患者と同様)は、ヒト患者に比べると、症状が非常に軽度であった。しかし、胚性致死と予想されたホモ接合体の作出に成功し、交配の条件検討を行うことで、生産性を高めた。ホモ接合体は、より強く興味深い症状を示しており、様々な観点からの解析を進めている。 我々には意外であった、Perry型神経細胞が複数の軸索を持つ現象については、マウス胚と誕生直後の個体からの培養下で異なる結果を得た。発生時期特異的な神経極性制御機構の存在が窺える。in vivoでの神経細胞形態観察は持ち越しとなり、現在、準備中である。 以上の結果から、概ね、目標とした成果に到達したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
Perryマウス由来の神経細胞が、軸索を複数持つ上に、軸索と樹状突起の存在様式が特徴的であったため、in vitro, in situ, in vivoで、神経細胞のイメージングが重要課題となる。Golgi-Cox染色、また全脳の透明化とwhole-mount免疫染色等による軸索・樹状突起の可視化技術、更に光シート顕微鏡を用いた実験に目途が立ったため、これらの技術を駆使した、in vivoイメージングを実施したい。更に、若い個体から高齢個体までを調べることで、神経変性が始まる前後での回路パターンの変化を追跡したい。一方、個々の神経細胞を低密度培養し、超解像顕微鏡を用いて、in vitroでの細胞形態を詳細に観察する実験手技を確立中である。 加えて、Perryマウスの神経症状に関しては、微小振戦検出機器と歩行バランス測定システム、並びにAIベースの行動解析ツールを用いて調べる予定である。 これらの技術の確立と並行して、神経極性制御の分子機構の解析に取り組む予定である。 既知の神経極性制御分子群の局在を調べているが、PerryニューロンにおいてTDP-43の局在異常を認めたため、TDP-43による神経極性制御の仕組みの可能性を検討中である。
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