研究課題/領域番号 |
21K06273
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44050:動物生理化学、生理学および行動学関連
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
関 洋一 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (30634472)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 昆虫脳 / 微小脳 / ハナアブ / ホソヒラタアブ / 送粉システム / ポリネーター / 花 / 色覚 / 電気生理 |
研究開始時の研究の概要 |
被子植物の多くは花粉媒介昆虫を惹きつけるように花の形質を変化させ、昆虫の視覚は花を検出・識別するために適応してきた。送粉システムを理解するためには、花の多様な形質が表現されるしくみだけでなく、それを利用する昆虫の視覚系の理解が欠かせない。本研究では、ハナアブをモデルに花認識の視覚神経機構を解明することを目的とする。訪花行動を引き起こす花の形質を行動実験によって抽出し、中枢神経系に電気生理学的手法を適用して、花の認識に関わる神経基盤を明らかにする。
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研究実績の概要 |
ミツバチを中心に、花の形質に関連する視覚要素を分析する行動学的な研究は数多く行われてきた。しかし、花の視覚特徴の脳内での情報表現を調べる神経生理学的なアプローチを組み合わせた研究はあまり行われておらず、花の認識に関する昆虫の視覚神経機構はまだ未解明の部分が多い。本研究では、ハナアブの一種であるホソヒラタアブ(Episyrphus balteatus)をモデル系として導入し、送粉昆虫が花を認識する視覚神経機構を解明することを目的とする。そのために、飼育系の確立から、花の探索行動を再現する行動実験系の確立と詳細な脳領域の構造を解析する脳マップの作成、さらに、視覚情報処理の神経系からの電気生理学的手法の確立を進めている。 まず、新たな実験材料としてホソヒラタアブを導入するため、初年度に引き続き飼育系の確立を進めた。幼虫の餌であるアブラムシを飼育して供給することにより、実験に必要な個体数を十分に得ることができるようになった。また、自然に近い飛行状態から花の視覚要素の選択を評価できる行動実験系の確立のため、飛行環境の条件検討を行い、実験室ケージ内での長時間飛行を実現した。そして、ホソヒラタアブの詳細な3次元脳構造マップを作成するため、シナプシン免疫染色による脳画像から主要脳構造の詳細な解析を行った。さらに、視覚神経機構の機能解析に必要な電気生理学的手法の確立のため、in vivoホールセルパッチクランプ法とElectroretinogram (ERG; 網膜電図)の適用を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、①飼育方法の改良、②行動実験系の確立、③脳のマップ作成、④電気生理学的手法の確立を進めた。このうち①~③については予定通り進んだが、④については少し遅れている。 ①昨年度はホソヒラタアブを研究に用いるために、野外での個体の捕獲と飼育方法の開発により、ある程度の個体数を確保できる目処を立てた。本年度は、さらに飼育方法の改良を行い、幼虫の餌であるアブラムシを飼育・繁殖させることにより、餌の安定供給を実現し、十分な数の成虫を羽化させることができるようになった。 ②昨年度用いたアクリルケージでは、ケージ内での静止時間が多かったため、ケージの大きさ、素材、光環境などの条件を比較し、ホソヒラタアブがケージ内で長時間の飛行を行うための条件を検討した。60x100x60cmの白網ケージにて、平均で4分超の連続飛行時間を実現した。また、野外でみられるような花の探索飛行行動を誘導するために、モチベーションのコントロールや動機付けが重要であることがわかった。 ③脳のマップ作成については、シナプシン免疫染色により脳全体を標識し、共焦点顕微鏡により取得した3次元脳画像のデータ解析を進めた。脳の主要領域である視葉、触角葉、キノコ体、中心複合体のセグメンテーションを行い、各領域の詳細な構造を明らかにするとともに、理解の進んでいるショウジョウバエの脳との比較を行った。そして、ショウジョウバエ脳構造との類似性やホソヒラタアブにおける顕著な視覚系の発達などを明らかにした。 ④電気生理学的手法の確立については、in vivo ホールセルパッチクランプ法の適用を目指したが、実験技術の習熟に問題があり、神経応答の計測法の確立が遅れている。一方で、視細胞の分光感度や時間分解能を調べるためのERG計測法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
飼育法については、野外で捕獲した個体が産んだ卵から幼虫を育て、成虫を羽化させるまでの飼育プロセスはかなり確立されてきた。しかし、交尾の生態に関する知見が乏しいことから、研究室での交配ができていない。野外での出現期間が春と秋の2カ月ほどに限られているため、実験のできる期間を長くするために飼育個体を用いた研究室内での交配方法の開発を検討する。 行動実験系の改良については、ケージ内での探索飛行行動を誘導するための条件が得られたので、花の認識に関わる視覚要素を抽出する実験をデザインし、データの取得を進める。 脳のマップ作成については、主要脳領域の解析はおおむね完了したので、明確なニューロパイル構造をもたない脳領域の解析や脳領域間を接続する神経トラクトのマップ作成を進める。 電気生理学的手法の確立については、引き続きin vivoホールセルパッチクランプ法の適用を行い、花の視覚要素刺激の提示に対する高次視覚ニューロンの応答を記録する。さらに、記録後、染色されたニューロンの形態画像と合わせて、神経回路における視覚情報処理を類推する。同時に、複眼の個眼数のカウント、ERGによる分光感度計測や時間分解能の測定などにより、視覚生理学的なデータを収集し、ホソヒラタアブの花の見え方の神経機構について考察する。
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