研究課題/領域番号 |
21K06274
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44050:動物生理化学、生理学および行動学関連
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
近藤 保彦 帝京科学大学, 生命環境学部, 教授 (00192584)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 性行動 / 前脳 / オキシトシン / バソプレシン / 嗅覚系 |
研究開始時の研究の概要 |
男性は女性に魅せられ、女性は男性に惹かれる。有性生殖を営む生物としてのヒトが示す最も基本的な向社会行動である一方、LGBTQのような非典型的性指向性がなぜ起こるのか、その生物学的基盤を探ることは社会的にも極めて重要である。ヒトと同様、成熟雄マウスは発情雌の匂いに、発情雌マウスは成熟雄の匂いに強い選好性を示す。しかしオキシトシンを欠損したマウスではこのような選好性が消失していることから、オキシトシンが決定的な役割を果たしていることが分かった。そこで本研究では、異性臭に対する選好性の神経調節におけるオキシトシンおよびバソプレシン神経系の化学感覚処理系における位置づけを解明することを目的とする。
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研究実績の概要 |
バソプレシン1b受容体(V1bR)は、雌の性行動に特徴的な反応であるロードーシスの発現を強く促進しており、V1bRの欠損はロードーシス発現を著しく障害する。一方、バソプレシン1a受容体(V1aR)は、V1bRと反対に雌のロードーシスを抑制しているのだが、V1aRを単独で欠損させてもその効果はほとんど検出されないが、V1bRと同時に欠損させることによってV1bR欠損によるロードーシスの低下を回復させることができることが分かった。一方、オキシトシン受容体(OTR)は、欠損させてもロードーシスにはほとんど影響しないが、雄に対する拒絶行動が増加する一方、雄から遠ざかろうとする行動自体も低下する。正常な雌は、交尾の後に雄と距離を置くことによって交尾のペースを調節し(ペース取り行動)、結果としてこれが繁殖効率の上昇につながることが報告されているが、OTRを欠損した雌はペース取り行動ができないため雄の近傍に留まり、結果として雄の接近に対して拒絶する行動が上昇したものと理解することができる。 一方、雄マウスは同種の雄臭と発情雌臭を同時に提示する選好性テストにおいて、発情雌臭に強い選好性を示すが、我々はオキシトシンKOマウスがこの選好性を消失していることを報告しているが、これをOTR欠損マウスで確認したところ、OTRの欠損は発情雌臭に対する選好性には影響しないことが分かった。そこでこれらのマウスにV1bR拮抗剤(V1aRant)を投与したところ、コントロール群であるHetro雄には効果がなかったが、OTR-KOマウスの選好性は消失させることが分かった。したがって、雄マウスの発情雌臭に対する選好性は、オキシトシンがOTRではなくV1bRに作用することによって調節されていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
―昨年、新たに開発した雌マウスの性行動測定装置を用いて、バソプレシンv1a受容体、v1b受容体、そしてv1a・v1b両受容体のKOマウス、並びにオキシトシン受容体KOマウスにおける雌性行動の実験結果を論文に投稿したところ、いくつかの問題点が指摘された。そのために昨年は、データを追加し見直しを行ったため、新たな実験はその分、抑制されるとなった。しかしながら、上述したOTR欠損の雌マウスの性行動について記載したように、OTR欠損は単に拒絶行動を増加させるだけでなく、雌マウスの交尾ペース取り行動が障害されていることが明らかになった。現在、この点を含め論文を訂正中であり、数週間以内にも再投稿の予定である。 また、研究業績後半に記したように、雄マウスの嗅覚選好性に関しても新たにオキシトシンの役割が明らかになってきており、脳内のオキシトシン系とバソプレシン系は相互に影響し合い、単独では議論できないことが明らかになってきた。したがって、これまで知られてきたオキシトシン・バソプレシンの社会行動における役割についても、これらがクロストークして行動を制御している可能性についてさらに吟味する必要性が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
バソプレシンv1b受容体が雌マウス性行動のロードーシス発現に極めて重要な役割を果たしていることが明らかになったため、脳のどの領域に発現するv1b受容体が雌の性行動制御に関わっているかを明らかにすることをプロジェクトの最優先課題と方向づけた。そこで、米国NIHからv1bとcre組換え酵素を共発現するv1b-creマウスを入手し、研究を進めるべく繁殖中である。今後、このマウスにアデノ随伴ウィルスをベクターとして遺伝子導入を行い、性行動に関わるバソプレシン受容体の脳内領域を特定するとともに、その神経投射を解析していく予定である。 さらに雌マウスの雄臭に対する選好性は、学習性のものであることも明らかになってきた。現在、この行動についても解析を行っていく計画を立てている。
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