研究課題/領域番号 |
21K06294
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45020:進化生物学関連
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
豊岡 博子 法政大学, 生命科学部, 助手 (00442997)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 性フェロモン / ボルボックス系列 / 細胞間コミュニケーション |
研究開始時の研究の概要 |
多くの真核生物は有性生殖の際、性フェロモン等の生理活性物質を介した細胞間コミュニケーションシステムを採用している。しかし、これらのシステムが獲得された過程についての分子進化学的知見は乏しい。本研究は、有性生殖の誘発の要因が、「環境要因(窒素飢餓)」から「性フェロモンを介した細胞間コミュニケーション」に転換した系統群・ボルボックス系列緑藻を用い、その中間段階にあるユードリナを中心とした比較生物学的解析を展開することで、真核生物における生理活性物質を活用した細胞間コミュニケーションシステムの獲得と進化のプロセスを分子レベルで解き明かす。
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研究実績の概要 |
本研究は、真核生物において性フェロモン等の生理活性物質を介した細胞間コミュニケーションシステムがどのように獲得され進化したのかを、分子レベルで解き明かすことを目的とする。そのために、有性生殖の誘発の要因が、「環境要因(窒素欠乏)」から「性フェロモンを介した細胞間コミュニケーション」に転換した系統群であるボルボックス系緑藻に着目し、特にこの系統群の進化の中間的段階にある異型配偶生物のユードリナを用いた研究を展開する。研究代表者らはこれまでに、ユードリナ雄株の培養上清中に雄配偶子の群体(精子束)の形成を誘導する活性をもつ性フェロモンが含まれることを示した。本研究ではこれまでに、この性フェロモンの活性を検証するためのバイオアッセイ系を構築した。また雄株培養上清から性フェロモンを精製する方法を検討し、硫安沈殿による分画等が有効であることを示した。2023年度は、硫安沈殿による活性粗分画を用いて、Sephacryl S-300カラムによるゲル濾過クロマトクラフィーを行った。その結果、20-30 kDa程度のサイズの分子を含むと推定される画分に活性のピークがあることがわかった。現在、この画分に含まれる性フェロモン候補タンパク質をさらに精製することを試みており、精製・回収出来次第、この候補タンパク質のアミノ酸配列を質量分析によって同定する予定である。また、本研究では2023年度、ユードリナの性フェロモンによる精子束形成誘導に対する窒素欠乏の影響を検証した。その結果ユードリナにおいては、性フェロモンと窒素欠乏が協調して有性生殖を誘発することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、ボルボックス系列緑藻のユードリナを用いて、雄株の培養上清中に存在する精子束形成を誘導する活性を持つ性フェロモンタンパク質を精製し、分子同定することを目指している。これまでの研究で、この性フェロモンの活性測定のためのバイオアッセイ系を確立し、硫安沈殿によって性フェロモンを粗分画する条件を見出した。2023年度はまず、雄株培養上清300mlを用いて硫安分画を行い、得られた活性粗画分に対して、Sephacryl S-300カラムによるゲル濾過クロマトグラフィーを行った。その際、AKTA prime plusシステムを使用した。また、分子量マーカーを用いて同条件でゲル濾過を行なって検量線を作製した。得られた各溶出画分の生理活性をバイオアッセイ系によって検証した結果、20-30kDa程度のサイズの分子を含むと推定される画分に活性のピークがあることがわかった。雄株培養上清を3Lまでスケールアップし、同様に硫安分画・ゲル濾過を行い、SDS―PAGEで展開して銀染色を行ったところ、活性画分において20kDa程度のバンドが検出された。現在、この20kDaタンパク質を性フェロモン候補と考えており、今後このタンパク質を精製・回収して質量分析を行う予定である。 また本研究では2023年度、ユードリナの精子束形成誘導における性フェロモンと窒素欠乏の関係性について、バイオアッセイ系を用いて検証した。その結果、性フェロモン濃度が低い場合において、窒素欠乏による精子束形成の顕著な促進がみられた。このことからユードリナでは、性フェロモンと窒素欠乏が協調的に作用して精子束形成を誘導することが分かった。 以上のことから、本研究は当初の計画からはやや遅れているものの、確実に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2024 年度はまず、これまでに確立した実験系や有効性を示した技術を活用し、ユードリナにおいて精子束形成を誘導する性フェロモンタンパク質を精製する。具体的には、精子束誘導活性を持つ雄株培養上清を大量に調整し、硫安沈殿により粗分画した後、AKTA prime plusシステムを用いてゲル濾過クロマトグラフィーによって分画する。さらに活性溶出画分に含まれる性フェロモン候補タンパク質を陽イオン交換クロマトグラフィーにより回収し、SDS―PAGEで展開した後に銀染色でタンパク質を可視化する。検出された性フェロモン候補タンパク質をゲルから切り出し、外部委託にて質量分析(LC-MS/MS)を行う。得られたスペクトル情報をもとに、ユードリナゲノム配列データベースに対してMascot検索を行い、当該タンパク質のアミノ酸配列を同定する。この配列を元に候補タンパク質をコードするcDNAをクローニングし、大腸菌等を用いて組換えタンパク質を作製して、その精子束誘導活性を検証する。 上記の解析にてユードリナの性フェロモンタンパク質を同定した上で、ボルボックス系列緑藻の各進化段階の生物のおける同タンパク質のオルソログの配列をゲノムデータベースから取得し、各生物間での比較解析を行う。これらの解析により、性フェロモンがどのような分子進化を経た上で誕生し、進化したのかを推定することで、生理活性物質を活用した細胞間コミュニケーションの誕生の鍵となる進化プロセスの理解に迫る。
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