研究課題/領域番号 |
21K06383
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
中西 博 安田女子大学, 薬学部, 教授 (20155774)
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研究分担者 |
野中 さおり 安田女子大学, 薬学部, 講師 (40767787)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | カテプシンH / トル様受容体3 / インターフェロン-beta / ミクログリア / アストロサイト / インターフェロン-beta / グリオーシス制御 / IFN-beta |
研究開始時の研究の概要 |
脳損傷後のグリオーシスの形成機序ならびに脳機能回復への関与について理解すことは重要であるが、不明な点が多い。低酸素/脳虚血により野生型マウスでは著明な脳萎縮が生じるが、リソソーム性タンパク質分解酵素のカテプシンHを欠損させたマウスでは著明なニューロン死と高度なグリオーシスが生じ、脳萎縮は軽度であった。カテプシンHはToll様受容体3のプロセシングに関与するため、カテプシンH欠損マウスではIFN-beta産生分泌の低下が高度なグリオーシスを引き起こす要因となった可能性がある。そこで、本研究はミクログリアのToll様受容体3-IFN-betaシグナリングを介したグリオーシス制御機構を明らかにする。
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研究実績の概要 |
2022年度は主に培養ミクログリアならびにアストロサイトを用いた実験を行なった。 ①低酸素/脳虚血に伴うミクログリア細胞死におけるトル様受容体3(TLR3)・インターフェロン(IFN)-alpha/beta受容体シグナリングの役割:低酸素/脳虚血に伴い活性化したミクログリアの産生分泌するIFN-betaが、ミクログリア細胞死(活性化誘導細胞死)を抑制することが示唆される。そこでTLR3・IFN-alpha/beta受容体シグナリングのミクログリア細胞死(活性化誘導細胞死)に及ぼす影響を解析した。その結果、カテプシンHの短鎖干渉RNA(siRNA)導入により実験的脳虚血(無酸素+無グルコース)により誘発されるミクログリア株化細胞(MG6)の細胞死は有意に増大した。また、リコンビナントIFN-betaは実験的脳虚血により誘発されるMG6の細胞死を有意に抑制した。 ②アストロサイト増殖におけるTLR3・IFN-alpha/beta受容体シグナリングの役割:低酸素/脳虚血に伴い活性化したミクログリアの産生分泌するIFN-betaが、IFN-alpha/beta受容体を介してアストロサイト増殖を抑制することが示唆される。そこでTLR3・IFN-alpha/beta受容体シグナリングのアストロサイト増殖能に及ぼす影響を野生型マウスの脳より調整した初代培養アストロサイトを用いて解析した。その結果、IFN-betaはアストロサイトの増殖・遊走を有意に抑制した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、リソソーム性プロテアーゼの一種であるカテプシンHを欠損させたマウスでは低酸素/脳虚血により海馬において著明なニュー ロン死と高度なアストログリオーシスが生じ、脳萎縮は軽度であることを突き止めた。一方、野生型マウスでは、低酸素/脳虚血により著明な脳萎縮が生じた。そこで本研究は、カテプシンHの脳機能の回復における役割を解明することを目的とした。現在までに、マウス個体を用いた実験により以下の知見を得た。(1)TLR3ならびにリン酸化STAT1の発現は低酸素/脳虚血を負荷した野生型マウスのミクログリアに認められたが、カテプシンH欠損マウスには認められなかった。(2)カテプシンH欠損ミクログリア/マクロファージではIFN-beta産生分泌が有意に低下していた。(3)カテプシンH欠損マウスではニューロン死に伴って海馬に集積した貪食性ミクログリアの細胞数は野生型マウスと比べて著しく少なかった。 さらに培養ミクログリアならびにアストロサイトを用いた実験により以下の知見を得た。(4)カテプシンHのsiRNA導入により実験的脳虚血により誘発されるMG6ミクログリアの細胞死は有意に増大した。(5)リコンビナントIFN-betaは実験的脳虚血により誘発されるMG6の細胞死を有意に抑制した。(6)初代培養アストロサイトを用いてアストロサイト増殖・遊走能に対するリコンビナンIFN-betaの作用をスクラッチアッセイ法により解析した結果、IFN-betaはアストロサイトの増殖・遊走を有意に抑制した。 以上の結果、カテプシンHはミクログリアにおけるTLR3・IFN-alpha/beta受容体シグナリングを介し、死細胞貪食後の貪食性ミクログリアの生存維持ならびにアストロサイトの増殖・遊走制御(グリア瘢痕形成の抑制)に関与することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
脳損傷に伴って生じる高度なアストログリオーシスはニューロンの変性脱落に伴う脳萎縮を抑制し、炎症が脳全体に広がるのを防ぐバリアとしての役割を果たすと考えられる。しかし一方で、神経回路の再生・修復を物理的に妨げ、毒性物質を放出することで脳機能の回復を抑制するという指摘もある。このようにアストログリオーシスは二面性の役割を持つため厳密に制御されていると考えられ、アストログリオーシスの脳損傷後の脳機能回復における意義を解明することは極めて重要である。 本研究では、カテプシンH欠損マウスではニューロン死に伴い高度なアストログリオーシスが形成されることを明らかにした。具体的には、野生型マウスでは低酸素/脳虚血負荷に伴いアストログリオーシスが軽度で、高度な脳萎縮が生じた。一方、カテプシンH欠損マウスでは低酸素/脳虚負荷に伴い高度なアストログリオーシスが形成され、軽度な脳萎縮しか生じなかった。そこで2023年度は、低酸素/脳虚血負荷後の野生型ならびにカテプシンH欠損マウスの認知機能を比較することで、脳萎縮ならびにアストログリオーシスの脳機能回復に及ぼす影響を比較検討する。具体的には以下の実験を行う予定である。
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