研究課題/領域番号 |
21K06397
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松田 恵子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40383765)
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研究分担者 |
荒井 格 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00754631)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | シナプス / 海馬 / 抑制性シナプス / GABA受容体 / 興奮性シナプス / NMDA受容体 / グルタミン酸受容体 |
研究開始時の研究の概要 |
入力線維の性質に応じて、構造的・機能的に特化したシナプス後部が樹状突起上の特定の領域に形成される分子機構については、いまだに未解明な点が多い。申請者らは、分泌型シナプス形成分子であるC1q/TNF alphaファミリーの機能を発見してきた。このファミリーのCbln4は、グルタミン酸作動性神経細胞のみならず、ソマトスタチン陽性介在神経にも発現し、抑制性シナプスを制御する可能性が考えられてきた。そこで本申請研究においては、Cbln4に焦点を置き、どのような受容体を介し、興奮性、抑制性シナプス特異的なシナプス後部分子群を集積させ、シナプスの個性を生み出すのかという普遍的原理に迫る。
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研究実績の概要 |
シナプス伝達物質GABAが放出される軸索直下には、主に樹状突起上のシャフトに抑制性シナプス後部が誘導され、抑制性シナプス伝達を担うGABAA受容体が、Gephyrinなどの足場タンパク質とともに集積してくるが、同じ一本の樹状突起上に、入力線維の性質に応じて、構造的・機能的に特化したシナプス後部が、樹状突起上の特定の領域に区分されて形成される分子機構についてはいまだに未解明である。申請者らは分泌性シナプスオーガナイザーCblnファミリーの機能を発見してきた。Cblnサブファミリーの一つであるCbln4は、興奮性シナプスのみならず、抑制性GABA作動性神経細胞(SST-Int)にも発現し、本申請研究において作成したHA tag Cbln4トランスジェニックマウスの詳細な検討により、海馬シナプスにおいて嗅内皮質から興奮性の入力を受ける貫通線維-網状分子層シナプスのみならず、CA3錐体細胞との抑制性シナプスにも局在することを見出した。 またHACbln4、HACbln1トランスジェニックマウスを用いた解析により、これらCblnファミリー分子は同じ嗅内皮質細胞に発現し、同一の軸索でありながら投射先である海馬においては異なるシナプスにそれぞれが局在していることが見出された。このことはシナプスに放出されたのち異なる受容体に依存しシナプス局在することを示唆し、機能するシナプス種が異なるという可能性が考えられた。 Cbln4欠損マウスのCA1錐体細胞における表現型から、Cbln4は興奮性シナプスにおいて、適切なAMPA受容体/NMDA受容体の集積比を制御していることが明らかとなった。しかしながらCbln1欠損マウスにはこのような表現型は見られず、Cbln4欠損マウスの表現型をCbln1によってレスキューできなかったことから、Cbln4に特異的な機能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでCbln1とCbln4の機能の違いとして、シナプス後部受容体であるGluD1やシナプス前部受容体NeurexinへのAffinityの違いに注目されてきた。しかし、今回新しく、Cbln1とCbln4が分泌されるシナプス部位が重なりはあるものの、単独で機能していることを示すデータは、それぞれ独自の局在化メカニズム、つまり特異的受容体の存在を強く示唆していた。 さらに、Cbln4欠損マウスのCA1錐体細胞で観察されたNMDA受容体活性化という表現型はCbln1欠損マウスでは見られず、AAVによるCbln4発現によってCbln4欠損マウスにおけるNMDA受容体活性化は野生型レベルまで低下した一方、Cbln1発現にはこの効果は見られなかったことを見出した。このことからCbln4特異的受容体がこのシナプスに存在し機能している可能性を新たに示すことができた。この受容体候補はすでに得られており、これまで知られていたGluDファミリー受容体に加え、miRNAによる欠損実験により、Cbln4-特異的受容体-GluD1複合体によるシナプス機能を解析するところまで来ている。 本成果は興奮性シナプスにおけるCbln4の機能であるが、HACbln4トランスジェニックマウスにおいて抑制性シナプスにもHACbln4が局在することから、この抑制性シナプスにおいてCbln4はGluD1とともに上記特異的受容体やその類縁受容体との複合体が機能する可能性も見出された。このように欠損マウスによる表現型の解析に合わせ、分子実体に迫ることができるようになった点が本年度の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
1)Cbln4-GluD1受容体がCA3抑制性シナプスに存在することを示したが、このシナプスに含まれるGABA受容体を免疫染色にて明らかとする。 2)小脳でのCbln1-GlUD2受容体の関係のように、Cbln4のシナプス局在がGluD1あるいは新たな受容体候補によって規定されている可能性を探る。HACbln4トランスジェニックマウスにおいて、それぞれの受容体のmiRNA発現実験にて、受容体欠損させ、HACbln4局在変化を解析することで明らかとする。 3)Cbln4はSST抑制性神経細胞に発現していると考えられた。SST-CreあるいはSST-Cre/Cbln4欠損マウスにDIO-GFPを発現させ、軸索を可視化し、抑制性シナプスマーカーであるVGAT-Gephyrinを観察する。 4)SST-Creマウスにチャネロドプシンを発現させ、CA3神経細胞からIPSCを記録することで、抑制性シナプス形成におけるCbln4の機能を明らかとする。 5)本年度明らかとした興奮性シナプスへの効果の違いを担う受容体を明らかとし、AAVによるレスキュー実験により機能領域を明らかとする実験へと進める。
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