研究課題/領域番号 |
21K06407
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46020:神経形態学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
服部 剛志 金沢大学, 医学系, 准教授 (50457024)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 社会性記憶 / 自閉症 / グリア細胞 / アストロサイト / シナプス / 神経回路 / 社会性 / 発達障害 / カルシウム |
研究開始時の研究の概要 |
他者を記憶しておくことは我々が円滑な社会行動を営むために必要不可欠な能力です。自閉症の一部においては、この他者を認識する「社会性記憶」が障害されています。最近、神経細胞による社会性記憶の形成メカニズムが明らかになりつつありますが、グリア細胞の重要性や役割については、ほとんど解明されていません。私たちは、グリア細胞だけでCD38という遺伝子を取り除いたマウスにおいて、社会性記憶の形成に異常があることを見出しました。本研究では、アストロサイトによる社会性記憶形成の仕組みを明らかにします。本研究を進めることにより、自閉症における社会性障害の解明と治療法の開発につながる可能性があると考えます。
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研究実績の概要 |
社会性行動はヒトの生存や生殖において不可欠な行動であり、社会性記憶(他の個体についての記憶)は社会性行動の一つです。これまでこの社会記憶に関する脳内の神経回路についてはほとんど不明でありましたが、最近、その神経回路が同定され、神経細胞による社会性記憶の形成メカニズムが明らかになりつつあります。しかしながら、同記憶の形成において、グリア細胞(脳において神経細胞以外の細胞)の重要性や役割については、ほとんど解明されていません。本研究では、グリア細胞の一種であるアストロサイトの社会性記憶の形成における役割を明らかにするために、アストロサイトにおいてのみCD38という遺伝子を欠損させたマウス(CD38 AS-cKOマウス)を作成し、解析を行いました。 同マウスは活動性、不安、子育て行動などに常は見られないにもかかわらず、社会性行動における社会性記憶のみが障害されるという特徴的な行動異常を示しました。社会性行動に関わる領域おける神経の異常を調べた結果、神経同士の結合部位であるシナプスの数が減少していること、そして、シナプス自身の形にも異常が見られました。更に、この原因としてアストロサイトのCD38が欠損すると、神経細胞のシナプス形成を促進する分子であるSPARCL1という分子が減少し、神経細胞に十分に供給されないことが分かりました。つまり、生後の脳の発達期において、アストロサイトという細胞が社会性記憶の神経回路形成に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。 本研究結果をさらに発展させることにより、社会性障害を示す疾患である自閉症における病態解明や診断・予防法の開発につながることが期待されます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究概要に記した結果に加え、CD38下流シグナル探索のためにCD38遺伝子欠損培養アストロサイトにおける網羅的遺伝子解析を行った。さらに、各種細胞内シグナル伝達阻害剤を用いた研究を行うことにより、アストロサイトにおけるSPARCL1の分泌機構にCD38/cADPR/calciumという細胞内シグナル伝達経路が関与することを見出した。アストロサイトCD38を起点とする社会性記憶障害における神経回路形成異常とその分子メカニズムを明らかにすることができたため、結果を取りまとめ、学会発表および論文投稿を行った。現在、投稿を行った論文の修正中であり、論文が受理されれば、当初の計画以上に進展することになるため、おおむね順調に進行し散ると考えられる。今後は、本研究で得られた知見をさらに発展させる研究を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、アストロサイトCD38の欠損により、cADPR/calcium/SPARCL1という下流の分子群の異常が社会性記憶の障害を引き起こすことを見出した。この知見をもとに、アストロサイトへの介入により社会性記憶障害の改善について検討を行う。具体的には、1)生後10日齢のマウスに対し、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)もしくはNR(ニコチンアミドリボシド)を10日間腹腔内投与を行い、CD38の発現促進を行い、その後の成体における社会性行動の解析を行う。2)生後10日齢のマウスに対し、SPARCL1発現ウイルス及びSPARCL1組み換えタンパク質の脳実質への投与を行い、その後の成体におけるシナプス形成及び社会性行動の解析を行う。 これらの研究を遂行することで、社会性行動を制御する神経回路の形成におけるアストロサイトの重要性と役割を明らかにするとともに、社会性異常を基盤とする自閉症などの疾患における治療法・予防法の開発へとつなげたい。
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