研究課題/領域番号 |
21K06428
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46030:神経機能学関連
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
船橋 靖広 藤田医科大学, 医科学研究センター, 講師 (00749913)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | グルタミン酸 / NMDA / 忌避行動 / 学習・記憶 / CaMKII / Rho-kinase / シナプス可塑性 / 樹状突起スパイン / カルシウム / リン酸化 |
研究開始時の研究の概要 |
中枢神経系の主要な神経伝達物質であるグルタミン酸はNMDA受容体を介してCaMKIIやRho-Kinase/ROCKなどのリン酸化酵素を活性化し、様々な標的蛋白質をリン酸化することで、シナプス可塑性を制御し情動・認知機能に関与すると考えられているが、その分子制御機構については依然として不明な点が多い。本研究では、シナプス可塑性に関与するRho-Kinaseの基質を特定しその作用機構を明らかにすると共に、忌避行動、学習・記憶におけるグルタミン酸ーCaMKIIーRhoAーRho-Kinase経路の役割を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本年度は、Rho-kinase(ROCK)が忌避学習・記憶に関与するかどうか検証するため、忌避刺激としてマウス足裏への電気ショックを用いた受動回避試験を行った。Rho-kinaseにはROCK1とROCK2の2つのアイソフォームが存在し高い相同性を有するため、Rock1 floxed マウスとRock2 floxedマウスを交配し、Rock1:Rock2 floxedマウスを作製した。アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて、このマウスの側坐核の中型有棘神経細胞にCre recombinaseを発現させ、ROCK1とROCK2を欠損させた。対照マウスと比較して、ROCK1とROCK2を欠損させたマウスでは、学習・記憶力が低下した。さらに、Rho-kinaseの基質として同定したSHANK3についても同様に、Shank3 floxedマウスの側坐核の中型有棘神経細胞にCre recombinaseを発現させ、SHANK3を欠損させた。受動回避試験の結果、対照マウスと比較して、SHANK3を欠損させたマウスでは、学習・記憶力が低下した。また、Rho-kinase の基質として同定したシナプスタンパク質のSYNGAP1とPSD-93の解析を行い、Rho-kinaseがNMDA受容体の下流で、SYNGAP1およびPSD-93をリン酸化することを明らかにした。Rho-kinaseによるSYNGAP1のリン酸化は、PSD-95からの解離を促進し、Ras-ERKシグナルの活性化し、樹状突起スパインの増大を促進した (Wu et al. Neurochem Res 2022)。Rho-kinaseによるPSD-93のリン酸化は、PSD-95やNMDA受容体との結合を促進し、樹状突起スパインの増大を促進した (Hossen et al. Int J Mol Sci 2022)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた以下の2つの項目について解析を行った。 1. スパインの形態可塑性の解析:培養神経細胞を用い、化学的に長期増強(LTP)を誘導した際のRho-kinase阻害剤(Y-27632)の効果について検証した。NMDA受容体のアゴニスト(Glycine)による刺激で化学的にLTPを引き起こすと、樹状突起のスパインが増大し、このスパインの増大はY-27632によって減少した。この際に、PSD-93やSYNGAP1のリン酸化が増加し、これらのリン酸化はY-27632によって減少した。また、PSD-93とPSD-95の共局在は、LTP誘導後に増加する一方、SYNGAP1はPSD-95から乖離した。これらの結果から、Rho-kinaseはシナプスタンパク質のリン酸化を介して局在制御を行い、スパインの形態可塑性に関与することが示唆された。 2. マウスの忌避学習・記憶の解析:Rho-kinaseやSHANK3が忌避学習・記憶に関与するかどうかを検証するため、Rho-kinaseやSHANK3のコンディショナルノックアウトマウスを用い、受動回避学習試験を実施した。Rho-kinaseやShank3を側坐核で欠損したマウスにおいて、学習・記憶力の低下が認められた。これらの結果から、Rho-kinaseは忌避学習・記憶に関与することが示唆された。 以上のことより、本年度研究開始時に立てた実施計画と目標はほぼ達成出来たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、以下の2つの項目について、解析を行う予定である。 1. スパインの形態可塑性の解析:Rho-kinaseのドミナントネガティブ変異体やSHANK3のリン酸化変異体を発現するAAVを外側坐核のD2R-MSNに発現させ、in vivoで樹状突起スパインの形態解析を行う。また、Rho-kinaseやSHANK3のコンディショナルノックアウトマウスを用い、Rho-kinaseやSHANK3を外側坐核のD2R-MSNで欠損させた際のスパインの形態解析を行う。さらに、培養神経細胞を用い、化学的に長期増強(LTP)を誘導しスパイン増大を引き起こした際のRho-kinaseのドミナントネガティブ変異体やSHANK3のリン酸化変異体の効果を検討する。 2. シナプス可塑性の電気生理学的解析:2022年度までにRho-kinaseが忌避学習・記憶に関与することを見出した。忌避学習・記憶の形成には、側坐核のドーパミンD2受容体を発現する中型有棘神経細胞(D2R-MSN)のシナプスの長期増強(long-term potentiation;LTP)が関与していると考えられる。そこで、Rho-kinaseが側坐核のD2R-MSNのLTPに関与しているかどうかをRho-kinase阻害剤や、Rho-kinaseのドミナントネガティブ変異体、コンディショナルノックアウトマウスを用いて、電気生理学的解析により検討する。
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