研究課題
基盤研究(C)
加齢に伴いタンパク質の代謝は低下し、血液中での滞留時間が長くなり、非酵素的アミノ酸異性化が生じる。アルツハイマー病の疾患原因タンパク質アミロイドβ(Aβ)にも加齢に伴って異性化が起こり、凝集性が高まり、アルツハイマー病の病態・症状を促進させる。本研究では溶液条件(温度、イオン強度、共存する溶質等)に応じて試験管内で生成する様々な異性化Aβの機能特性(凝集能、神経細胞毒性、および血液脳関門に存在するマルチリガンド受容体RAGEとの結合能)を解析し、異性化Aβの組成とこれらの機能特性との相関を系統的に解析し、加齢に伴うアルツハイマー病罹患率上昇におけるAβの「老化」の意味を明らかにする。
加齢に伴いタンパク質を構成するアミノ酸のD-体異性化が起こり、アルツハイマー病の病因タンパク質アミロイドβ(Aβ)においてもアスパラギン酸(Asp:1位、7位、23位)のD-体異性化が確認されている。昨年度までの研究でD-Asp含有Aβの機能特性として、線維・凝集体の形成速度、微細形態と構造安定性、及び線維核(シード)による線維形成促進能について解析した。今年度はさらにD-Asp含有Aβシード存在下で形成される線維の構造安定性向上についても明らかにした。次に今年度はAβは長時間の血液中滞留によりAspがD体-異性化することから、生体内を模した系としてAβの試験管内インキュベーションを行い、その溶液条件(外部環境)に応じて生じる異性化D-Asp含有Aβを分離する実験法を確立し、D体-異性化Aspに関する解析を行った。Aβを試験管内で生理的条件(pH7.4, 150mMNaCl、37℃)下、4週間インキュベーションし、LC-MSにてAβ内の3箇所のAspの異性化を解析したところ、Asp1についてはD-Asp及びL-iso-Asp、Asp7についてはL-iso Aspが検出されたが、Asp23の異性化は起こらなかった。この結果から、Aβ中に存在するAspの異性化はその位置に依存して起こることが明らかになった。次に溶液条件(外部環境)がAsp異性化に及ぼす影響を解析した。まず外部環境のpHの影響(pH5、6、8、或いは9)を解析したところ、生理的条件下と比較してAsp1の異性化はpH5及び9で促進し、Asp7の異性化はpH6及び8において抑制され、Aspの位置により外部環境の影響に差異があった。続いて塩濃度の影響(0mM或いは500mMNaCl)を検討したところ、全てのAsp異性化は塩濃度の影響を全く受けず、異性化の過程に静電的相互作用は関与しないことを明らかにした。
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