研究課題/領域番号 |
21K06637
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47050:環境および天然医薬資源学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
中嶋 聡一 近畿大学, 薬学総合研究所, 研究員 (50724639)
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研究分担者 |
中村 誠宏 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (20411035)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 神経新生 / 糖化タンパク質 / 認知症 / オオバゲッキツ / オトメアゼナ / 神経細胞 / PC-12 / フラボノイド / シード / 医薬シーズ / ターゲット特異的 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は新たな治療方針に基づく認知症の「根本」治療薬のシード化合物を見出し、同治療法の提案に繋げることを目指す。既存の認知症治療薬は全て対症療法薬であるため、根本治療法として「神経新生」に着目し、特に神経突起伸展の促進に焦点をあてる。研究代表者は最近、「糖化タンパク質が神経突起伸展を抑制する」現象を見出し、老化や糖尿病に起因する糖化タンパク質によって神経新生が阻害される可能性を仮定した。このメカニズムを解明し、ターゲットとした創薬研究を実施することで老化や糖尿病によって低下する神経新生の回復による治療を目指す。
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研究実績の概要 |
本期間では糖化タンパク質による神経新生の阻害が認知症の進行に影響する機序のうち、神経新生の抑制に関与する可能性のある細胞内タンパク質の候補として一年目に見出した、ERF、E2F1およびCREB1 (もしくはp-CREB1) のうち、p-CREB1タンパク質に特異的に結合し、その働きに影響することで糖化タンパク質による神経新生抑制を予防できる成分の探索をおこなった。使用した標的タンパク質はSH-SY5Y細胞から報告者が分離・精製した。 過去に報告者らが糖化タンパク質の非共存下での神経細胞様突起伸展促進作用を報告しているオオバゲッキツ葉部成分について検討したところ、エタノール冷浸抽出エキスから得られたp-CREB1結合性成分に糖化タンパク質による神経新生阻害軽減作用が認められた。またその成分は過去に報告したmahanimbineやmahanimbicineなどといったカルバゾール型アルカロイドだけではないことが明らかとなり、新たな医薬品シードの存在を示唆するものとなった。なお、本項は学会発表にて報告した。 一方で、本研究の特徴手法であるターゲットタンパク質特異的結合成分の探索手法を用いることで、Aβオリゴマー仮説に基づき、Aβオリゴマー特異的結合成分plantainoside Bをオトメアゼナ(Bacopa monniera)全草より見出した。Plantainoside BはAβ重合の初期段階すなわちオリゴマー時をターゲットとして結合することでさらなる重合を阻害し、毒性の強い重合度での神経細胞毒性を抑制することやアルツハイマー型認知症モデルマウスの空間認知機能を改善することも確認できた。なお本項は学会発表および論文発表にて報告済みである。 そのほか、新規認知症治療薬シードの探索素材としての研究素材の開拓を目的にいくつかの生薬原料についても成分研究をおこない学会発表等にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目に見出した新たなターゲットとなるべき標的タンパク質のうち、p-CREB1をターゲットとしたシード化合物の探索については概要にて報告した通りであり、概ね順調である。次の年度からは、その他に候補となっているERFやE2F1などといったターゲットタンパク質に対するシード化合物の探索について進める予定であり、それぞれのターゲットタンパク質に対して有望な生薬原料もしくはその結合性フラクションを見出すことが肝要である。これらがそれぞれ見出されることは本研究の成否に大きく影響するものと考えており、現時点で既に一つ見出されている点を考慮すると、本研究全体の進行状況としては順調といえる。 一方で、本研究の特徴であるターゲットタンパク質特異的結合成分の分析・探索を利用した研究アプローチのうち、糖化たんぱく質とは少し異なる視点からの研究アプローチとして、Aβオリゴマーをターゲットとする新規認知症薬シードの探索も予備的におこなっている。本研究アプローチによって、22年度はオトメアゼナ(Bacopa monniera)全草成分からAβオリゴマー特異的結合成分を見出した。さらにその成分のAβオリゴマーに対する神経保護作用や空間認知機能の改善作用を確認できたことから、本研究の本質的な目的である新たなメカニズムによる認知症治療シードの提供に成功しており、加えて本手法の実現性および確実性も担保することが出来たと考えられ、この点に関しては極めて有意義かつ順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
22年度に進捗のあったp-CREB1以外の候補タンパク質(ERFやE2F1など)について、特異的結合性、もしくは選択的結合性を示す成分を生薬および天然物原料から探索する。候補については既にp-CREB1に対する結合特異性およびその作用について検討したオオバゲッキツ葉部エタノール冷浸抽出エキスのほか、Aβオリゴマー結合性に関する検討で22年度にAβオリゴマーに対する神経細胞毒性への軽減作用やアルツハイマー型認知症モデルマウスの空間認知機能などにおいて改善実績を得たオトメアゼナ抽出エキス成分や、既に成分研究に着手している生薬成分など、可能な限り幅広く検討をおこなう。ERFやE2F1などのターゲットタンパク質に対して有望な特異的結合成分を有する生薬抽出エキスもしくは植物抽出エキスの結合性画分を、それぞれに対して1群以上見出すことを現時点での目標としている。 また、これまでに得られた結果をもとに、p-CREB1に結合して糖化タンパク質の神経突起伸展抑制に対する軽減作用を示すオオバゲッキツ葉部エタノール冷浸抽出エキス由来成分の同定をおこなう。また化合物の同定と同時に、各種生化学的実験手法により作用様式の検討を行うことで、実際に糖化タンパク質による神経突起伸展を特異的にターゲットとしているかどうかについても検証をおこなう。 なお、得られた成果については積極的に学会発表をおこない、研究組織内外の研究者との議論を重ねた上で研究を推進する。以上により、報告者が仮説を立てている糖化タンパク質により引き起こされる可能性のある認知症メカニズムに対し、新たな治療方針に基づく標的指向性の高い認知症治療薬シードの開発に貢献したい。
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