研究課題
基盤研究(C)
炎症性腸疾患の発症機序解明に、腸管免疫を制御する腸内細菌叢が注目されている。炎症性腸疾患の研究進展には腸管細胞と腸内細菌叢の共培養系が必要であるが、腸内細菌の毒性により長期共培養は困難であった。しかし、マイクロ流体チップを用いて培地を還流しながら培養することで腸内細菌の毒性を回避できるのではないかと考えられた。そこで本研究では、マイクロ流体チップを用いて長期間の観察が可能な腸管細胞と腸内細菌の共培養系を確立し、腸内細菌叢の破綻による炎症性腸疾患を模倣するマイクロ流体チップの開発を目指す。本研究によって開発した炎症性腸疾患モデルは、難治性の炎症性腸疾患の新規治療薬の開発に貢献できると考えられる。
本研究の目的は、腸内細菌叢の破綻による炎症性腸疾患を模倣するマイクロ流体チップを作製し、治療候補薬の簡便なスクリーニング系としての有用性を検証することである。3年間の補助事業期間の3年目に当たる本年度は、腸内細菌の侵入による炎症反応の評価と亜鉛添加が細胞バリア機能および炎症反応に与える影響の評価に取り組み、以下の成果を得た。1. 腸内細菌の侵入による炎症反応の評価 昨年度までに、腸管細胞を播種したマイクロ流体チップにおいて、腸管侵入性大腸菌EIECを処置した場合に腸管バリア機能の崩壊と細胞障害を生じることを示した。今年度は下側流路にマクロファージを播種することで、異物侵入から生じる炎症反応を評価した。バリア機能が崩壊するとEIECが下側流路に侵入し、それによりマクロファージからTNF-αが放出されたことから、本チップにおいて異物侵入による炎症反応の惹起を表現することが出来た。よって、炎症性腸疾患の発症メカニズムの一つを本チップ上で模倣できたと考える。2. 亜鉛添加が細胞バリア機能および炎症反応に与える影響の評価 上記の腸チップに対して、腸管バリア機能を強化することが知られている亜鉛を培地に添加したところ、EIECによるバリア機能崩壊の抑制とそれに伴う炎症反応の抑制がみられた。よって、バリア機能に影響を与える物質が炎症性腸疾患治療薬の候補となりうるかの評価系として本チップが利用できることが示唆された。以上、研究期間全体において、腸管細胞、粘液産生細胞、腸内細菌、マクロファージを搭載したマイクロ流体チップを開発した。本チップでは、炎症性腸疾患の発症メカニズムの1つと考えられている腸バリア機能崩壊からの異物の侵入と、それによって引き起こされる炎症反応を表現できたことから、腸バリア機能に影響を与える物質の炎症性腸疾患に対する有効性を評価できる系となりうると考えられる。
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