研究課題
基盤研究(C)
肝で生成した活性代謝物は、血液中へ排出輸送された後に全身で薬理作用を示すが、その輸送機構が解明された例は乏しい。本研究では、抗がん薬の活性代謝物について、肝から血液への排出輸送に関わる膜輸送体の役割を解明し、その輸送機能の層別化を可能とする血中バイオマーカー(BM)として、生体内基質を同定する。マウスin vivoノックダウンとPGx解析を併用して、膜輸送体の寄与を解明する。生体内基質探索においては、メタボロミクスに機械学習を導入して、検出力を向上させる。本研究は、活性代謝物の体内動態に寄与する膜輸送体の解明を通じて、有効かつ安全な薬物治療へ貢献できる。
Multidrug resistance-associated protein 3 (MRP3/ABCC3)は肝、小腸、尿細管上皮細胞の血液側細胞膜に発現する排出膜輸送体であり、グルクロン酸抱合体や胆汁酸を基質とする。肝に発現するMRP3は肝で代謝活性化された薬物の体内動態に影響を与えうるが、肝MRP3が薬物動態に及ぼす役割はほとんど解明されていない。Adeno-associated virus (AAV)が導入遺伝子を組織選択的かつ持続的に発現できる特徴を活用し、AAVで肝選択的にshRNAを導入して肝Mrp3をノックダウンすることで、肝からの基質排出におけるMrp3の役割を評価することを目的とした。マウスMrp3に対するshRNAを組み込んだAAV-shMrp3と対照としてAAV-shLacZを作製し、各AAVをマウスに静脈内投与3週間後に実験に供した。AAV-shMrp3投与群におけるMrp3のmRNA発現はAAV-shLacZ投与群と比較して、肝で約20%、腎で約70%に低下した一方、小腸・脳ではほぼ変化しなかった。Acetaminophen (APAP)を定速静注後の定常状態における体内動態を比較した。AAV-shMrp3投与群におけるAPAP、グルクロン酸抱合体(APAP-glucuronide)の血漿中濃度は、AAV-shLacZ投与群と同等であった。肝臓中APAP-glucuronide濃度は、AAV-shMrp3投与群でAAV-shLacZ投与群の約4倍に増加した一方、肝臓中APAP濃度は同程度であった。AAVを用いた肝Mrp3ノックダウンで、APAP-glucuronideの肝から血液への排出低下が確認でき、本実験系は肝Mrp3評価系としての有用性が示唆された。
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