研究課題
基盤研究(C)
肝で生成した活性代謝物は、血液中へ排出輸送された後に全身で薬理作用を示すが、その輸送機構が解明された例は乏しい。本研究では、抗がん薬の活性代謝物について、肝から血液への排出輸送に関わる膜輸送体の役割を解明し、その輸送機能の層別化を可能とする血中バイオマーカー(BM)として、生体内基質を同定する。マウスin vivoノックダウンとPGx解析を併用して、膜輸送体の寄与を解明する。生体内基質探索においては、メタボロミクスに機械学習を導入して、検出力を向上させる。本研究は、活性代謝物の体内動態に寄与する膜輸送体の解明を通じて、有効かつ安全な薬物治療へ貢献できる。
排出輸送体Breast Cancer Resistant Protein (BCRP/ABCG2)は、肝胆管膜のほか、小腸管腔、血液脳関門、腎近位尿細管等の細胞膜に発現する。肝臓は薬物の活性代謝物の生成臓器の一つであり、肝胆管膜に発現するBCRPは肝臓で生成した活性代謝物の体内動態の規定因子になりうる。分子標的薬regorafenibがCYP3A4で代謝されて生成した活性代謝物M-2, M-5は、親化合物であるregorafenibよりも薬理活性が強く、BCRPの基質でもある。肝に発現するBCRPがM-2, M-5の体内動態への寄与を評価した。前年度に作製したマウスBcrpを標的としたshRNAをコードするアデノ随伴ウイルスAAV8-shBcrpを野生型マウスに投与することで、肝選択的なBcrpノックダウンマウスを構築した。M-5の体内動態における肝Bcrpの役割を直接調べるため、野生型マウスにAAV8-shBcrpを静脈内投与して3週間後に、M-5をマウスに静脈内投与した。AAV-shBcrpを投与したマウスは、対照群よりも血漿および肝臓のM-5濃度が高い一方で、M-5の胆汁排泄量が低かったことから、M-5の体内動態に肝のBcrpが直接的に関与することが明らかになった。本研究は、AAVによる肝選択的なノックダウンを利用することで、肝における排出輸送体BCRPの体内動態を初めて明らかにした。今後、肝と他臓器間で、各種BCRP基質化合物の体内動態におけるBCRPの関与を定量的に比較する予定である。
2: おおむね順調に進展している
薬物regorafenibの活性代謝物M-2, M5の肝における排出輸送体の寄与を解明できた。肝選択的ノックダウンマウスは定期的かつ安定的に作成しており、生体内基質探索に必要な実験群を順次作製、サンプリング中である。メタボロミクス解析は、機械化のワークフローを構築済みであり、サンプルセットが回収でき次第、測定および解析を開始できる状況にある。
AAV8-shBcrpを投与することで肝選択的にBcrpをノックダウンしたマウスの血漿、肝、胆汁中における化合物濃度をメタボロミクスで網羅的に検出する。また、1、2、3週間と経時的に採取して比較する。その際に、メタボロミクスのデータ解析を自動化することで、各種組み合わせ間の比較を効率化することで、肝でのBCRP機能を鋭敏に反映する生体内BCRP基質を探索する。本研究は、活性代謝物の体内動態に寄与する膜輸送体の機能解明を通じて、有効かつ安全な薬物治療へ貢献できるのみならず、膜輸送体BM探索の分野に新たな解明ツールを提供することができる。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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