研究課題
基盤研究(C)
内分泌顆粒は内分泌細胞に特徴的な細胞内小器官であり、内分泌/神経内分泌分化の診断マーカーでもあるが、その形成メカニズムは未解明である。我々は予備実験から、通常内分泌顆粒を持たない"ある種の"非神経内分泌細胞に内分泌顆粒の形成を誘導する条件を明らかにした。その条件とは、「内分泌顆粒形成の誘導因子」「REST遺伝子の抑制」「内分泌顆粒内容物の発現」である。本研究はこれをさらに発展させ、"どのような細胞にも"実験的に内分泌顆粒を誘導する普遍的な条件、すなわち内分泌顆粒形成メカニズムの全貌を明らかにすることを目的とする。
内分泌顆粒形成におけるマスター遺伝子を明らかにする目的で、前年度に構築したマスター遺伝子候補(INSM1およびMYT1L)の発現ベクターを非神経内分泌系である肺大細胞癌株H1299に導入し、導入の是非をウエスタンブロット法により確認した。導入株においてINSM1の恒常的な発現が確認された一方、MYT1Lの発現は確認されなかった。この現象はH1299以外の細胞株においても同様に認められた。MYT1L発現ベクターは、培養細胞株に一過性に導入した際には機能したことから、MYT1Lの恒常的な発現が細胞株の生存等にとって好ましくない影響をもたらす可能性が考えられた。そこでまずは、INSM1を導入したH1299(H1299-INSM1)を用いて解析を進めた。H1299-INSM1における内分泌顆粒関連遺伝子の発現をqRT-PCR法により解析した結果、内分泌顆粒関連遺伝子はINSM1によっては直接的に誘導されなかった。INSM1は神経内分泌特異的な分化誘導因子である一方、内分泌顆粒の形成には深く関与しない可能性が示された点は有意義である。上記の実験に並行して、顆粒内容物の融通性についての解析を進めた。前年度に作製したカルシトニン(CALCAv1遺伝子)発現ベクターに加えて、抗利尿ホルモン(AVP遺伝子)発現ベクターを構築し、H1299細胞に導入した。それら導入株について超微形態学的解析を行ったところ、REST抑制に加えてPROX1を導入し、さらにCALCAv1ないしはAVP遺伝子を導入したH1299において、内分泌顆粒と考えられる構造物が確認された。現在この結果を裏付けるデータを収集中であるが、この結果は、培養細胞株に人為的に内分泌顆粒を形成する過程において、内分泌顆粒に含有されるタンパクとしては、そのホルモンの種類は問わない可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度の検討から、内分泌顆粒形成におけるマスター遺伝子の候補として考えていたINSM1が、その可能性は低いことが明らかとなった。また、これまでは非内分泌系細胞H1299に内分泌顆粒の形成を誘導する際に、顆粒内容物としてACTH(POMC遺伝子)を用いていたが、カルシトニンや抗利尿ホルモンといったその他のペプチドタンパク質によっても内分泌顆粒の形成が誘導されることが明らかとなった。研究は計画書に沿って進んでいると考えられる。
1. 内分泌顆粒形成におけるマスター遺伝子の候補として考えているMYT1L遺伝子について、非神経内分泌細胞株への安定的な導入方法を検討する。またそれが達せられた場合、MYT1Lが内分泌顆粒形成に与える影響を明らかにする。2. 内分泌顆粒の内容物質として、POMC遺伝子産物以外の分子によっても内分泌顆粒が形成される可能性が示されたため、追試を含めた確認実験を行う。また、形成された内分泌顆粒にカルシトニンや抗利尿ホルモンが共局在しているか確認する。3. これまでは、PROX1遺伝子とは別に内分泌顆粒形成を誘導する遺伝子(いわゆるマスター遺伝子)が存在すると考えていたが、現在までの解析結果から考えると、PROX1が最も重要度の高い内分泌顆粒の誘導因子である可能性も考えられるようになってきた。その場合、PROX1が内分泌顆粒形成に重要である理由は何か、検討する。
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Journal of molecular histology
巻: 10 号: 2 ページ: 437-448
10.1007/s10735-021-10055-5