研究課題/領域番号 |
21K06824
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48040:医化学関連
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
堀端 康博 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (80392116)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | プラズマローゲン / リン脂質 / 脂質輸送 / アルキルアシルグリセロール / EPT1 / CERT / CPT1 / 細胞内脂質輸送 |
研究開始時の研究の概要 |
プラズマローゲンは脳に豊富な抗酸化リン脂質で、脳神経系で多量に発生する活性酸素から神経細胞を保護する役割がある。最近申請者はプラズマローゲンの生合成経路において、一部の脂質前駆体がオルガネラ間(小胞体ーゴルジ体)で輸送される必要があることを新たに見出した。しかし、輸送に関わるタンパク質などの詳細は不明である。本研究ではこの輸送機構の実体を明らかにするとともに、その破綻による神経変性を解析する。
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研究実績の概要 |
プラズマローゲンは脳中枢神経系において活性酸素種から神経細胞を保護するのに重要である。また本リン脂質はフェロトーシスによる細胞死にも必要である。以上のようにプラズマローゲンは多機能なリン脂質で、その生合成経路の全容解明は重要な課題と言える。これまで本脂質の生合成はペルオキシソームで始まり、小胞体で完成するとされてきた。これに対し、研究代表者はゴルジ体の酵素EPT1が本脂質の完成に大きく寄与することを見出した。その結果、本脂質の脂質中間体であるアルキルアシルグリセロール(AAG)が小胞体からゴルジ体へ輸送される必要があることを見出した。しかし、この輸送に関わるタンパク質はこれまで全く不明であった。 本研究では上記の輸送に関わるタンパク質としてCeramide transport protein(CERT)を見出した。CERTは小胞体-ゴルジ体間でセラミドを輸送する。in vitroでの脂質輸送活性を調べた結果、CERTはAAGに対する輸送活性を有していた。次に培養細胞を用いてAAGの輸送活性を調べた。HEK293細胞においてCERTを欠失、あるいは阻害剤HPA-12で処理すると、AAGが小胞体に蓄積し、プラズマニルコリンの合成が増大した。以上からCERTがゴルジ体ー小胞体間におけるAAGの輸送に関わることが示唆された。 プラズマローゲン生合成の全容を解明するためには、EPT1などの最終酵素の知見を広げる必要がある。しかし、これまでこれらの酵素の構造学的解析はほとんど行われていない。今回、ミシガン大学との国際共同研究を行い、上記酵素の構造解析を目指した。本研究では酵母CPT1の立体構造をクライオ電子顕微鏡で解析し、基質認識機構や触媒作用の解明を試みた。その結果、CDP-コリンやジアシルグリセロールDAGに対する基質特異性および選択性に関わる特定のアミノ酸残基を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CERTがゴルジ体-小胞体間におけるAAGの輸送に関わり、プラズマローゲンの生合成に重要であるという本研究の成果は2023年に学術論文に投稿し、2024年1月に掲載された。 また、ミシガン大学との共同研究であるyCPT1の構造解析についても基質認識機構や触媒作用を明らかにできた。これらの成果をまとめ、2024年3月に学術論文に投稿した。リバイスについては2024年度内に追加実験を行い、再投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今回、プラズマローゲンの脂質中間体であるAAGを小胞体-ゴルジ体間で輸送するタンパク質に一つとしてCERTを見出した。HEK293細胞においてCERTを欠失してもプラズマローゲンの量が減少しなかった。これは小胞体のCEPT1が代償していると思われる。つまり、CEPT1が小胞体に蓄積したAAGからプラズマニルコリンとプラズマローゲンの両方を合成していると推測される。そこで次にCEPT1とCERTの両方を欠損した細胞を樹立し、プラズマローゲンが減少するか検証したい。ところで、研究計画当初はCERT以外も輸送タンパク質の候補として選定しており、これらがAAGあるいはそれ以外の脂質の輸送に関わっている可能性も残されている。候補のいくつかについては既に欠損細胞を樹立しているが、そこから先の解析には着手できていない。今後はこれらの候補の試験管内でのリポソーム輸送活性測定等を行うだけでなく、LC-MS/MSを用いた解析によって細胞内における脂質の変動を探査し、新たな脂質輸送の機序の発見を目指す。また時間的に余裕があれば、CERTや上記タンパク質の神経機能についても着手したい。例えば、初代神経細胞においてCERT等の発現を抑制した場合、神経突起形成や酸化ストレスへの耐性など、神経機能がどのような影響を受けるかについて調べたい。 yCPT1の立体構造の解析については研究内容がまとまり、最近学術論文に投稿した。今回、yCPT1の構造が明らかになったことで、ヒトEPT1やCEPT1などの立体構造もAlphaFold2で予測することが可能になった。今後はこれらの酵素の基質認識機構、例えばEPT1がDAGよりもAAGを基質として好むのはなぜかといった新たな研究課題についても取り組みたい。
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