研究課題/領域番号 |
21K06835
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48040:医化学関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
橋詰 令太郎 三重大学, 医学系研究科, 講師 (50456662)
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研究分担者 |
河野 光雄 三重大学, 医学系研究科, 講師 (00234097)
脇田 幸子 三重大学, 医学系研究科, 技術専門員 (20782981)
倉橋 浩樹 藤田医科大学, 医科学研究センター, 教授 (30243215)
北畠 康司 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (80506494)
宮川 世志幸 日本医科大学, 医学部, 講師 (90415604)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 染色体消去 / CRISPR/Cas / トリソミー / Down症候群 / iPS細胞 / 染色体 / CRISPR |
研究開始時の研究の概要 |
本課題では、Down症候群などの異数性染色体異常に対する、染色体消去技術の新規開発を試みる。本研究では、ゲノム編集技術であるCRISPR/Casシステムを用いて、アレル特異的に、ゲノム改変リスクを最少化する目的でペリセントロメア領域に対する染色体分解や、標的染色体へのエピゲノム修飾によるゲノム改変フリーの染色体消去を試みる。これらを通じて、過剰染色体を後天的に細胞から消去する、革新的な細胞再生技術の開発を追求する。
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研究実績の概要 |
本課題は、Down症候群などの過剰染色体核型を有する細胞に対し、染色体消去技術の新規開発を試みるものである。我々は、トリソミー21のiPS細胞に対するCRISPR/Cas9による21番染色体単一アレルに対する染色体切断が、標的染色体の細胞からの排除を誘導する現象を発見した。さらに、切断箇所数と染色体除去率には正の相関があること、非相同末端結合によるDNA切断後修復機構の阻害が染色体除去率の上昇に貢献することを理解した。これらは、CRISPR/Cas9等で染色体切断する際、修復不可能となる確率が上昇し、細胞が損傷染色体を保持する選択よりもむしろ細胞から排除する選択を選び、結果、染色体除去率が向上しているものと解釈するのが相当である。 一方、本現象が細胞周期依存性であるのか否かは、標的とする細胞によっては重要な問題となりうる。生体を構成する細胞は、1) 常時細胞分裂を行っている細胞(continuously dividing cells)、2) 必要時に細胞周期に再入する細胞(stable cells)、および3) 恒常的な非分裂細胞(permanent cells)に分類されうる。Down症候群の中枢神経系機能における表現型を主たる標的対象として捉える場合、2)3)がターゲットとなり得る。この文脈で論じれば、本現象が細胞周期非依存性であるかの評価は重要な点である。 しかしながらいずれにせよ、これらCas9による物理的な染色体切断は、予期せぬ染色体の構造変異を含むゲノム改変のリスクを内包している。そこで我々は、単一染色体アレル特異的な方法で、II型CEISPR-CasシステムであるCas9とともにI型CRISPRであるCas3システム等を用いた、ゲノム改変を極力抑えたあるいは行わない方法の開発を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は、薬剤誘導性にCas9およびCas3発現細胞株をゲノム編集によるゲノム改変細胞の作出を試みた。当初piggyBacによるiPS細胞に対するゲノム内挿入および、MMEJ機構を利用したいわゆるPITCh法にてゲノム編集細胞の作出を試みるも良好な結果を得ていない。 また、Cas9切断による染色体消去が、細胞周期のどの相でのCas9発現に依存しているかの理解のため、Cas9とgemininあるいはCdt1をCas9のC末に結合した複合タンパク質を発現するベクターを作出した。これらのベクターはトリソミー21のiPS細胞に導入され、染色体消去率等の解析を行った。結果、細胞周期のいかなる相でCas9が発現されようとも、染色体除去率には有意な変化を与えなかった。これは細胞周期のいずれにおいてもCas9発現による染色体切断が染色体消去を誘導することが理解されたが、染色体消去を惹起するために細胞周期そのものが必要かどうかはいまだ不明である。この問題を解決するため、細胞周期を停止する実験系の確立を行った。培養温度あるいは細胞周期を停止する複数の化合物を用いて検討したが、ヒトiPS細胞では細胞周期を停止させると細胞死を効率に惹起することが分明となり、トリソミー21線維芽細胞を低血清条件下で培養すると比較的高率に細胞周期停止状態を得られることを見出した。そこで我々は、チミジンアナログを添加した培養系において、非分裂細胞を対象に、染色体切断による染色体消去が確認されるかの解析に入った。 さらに、染色体消去により遺伝子シグネチャーが適正化されることを確認する為に、Cas9作動後の細胞株に対しRNA-seqが行われ、染色体消去により遺伝子発現が適正化することを確認した。 これまでのアレル特異的染色体切断による染色体消去と核型正常化に関する研究成果を論文としてまとめ、現在原著論文として論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
Cas9およびCas3をトリソミーiPS細胞株に発現させ、ペリセントロメアを含む染色体の異なる部位・領域に対し、より少数の切断点における染色体切断、およびエピゲノム修飾による染色体消去効果を検討する。Cas9はCas3と比し、比較的豊富なgRNA配列ごとの切断活性に関するデータセット、およびこれらを教師とした人工知能アルゴリズムが近年複数用意されている。これらのデータベースを用いて選択された、切断活性が高いと思われる少数のgRNAを用いた系における染色体消去率を評価する。ペリセントロメア機能は、ヒストンメチル化とDNAメチル化により維持されていることから、エフェクターとして、H3K9脱メチル化酵素や、DNA脱メチル化酵素等を用いる。これにより標的染色体のみペリセントロメア機能を失わせ、 ゲノム改変を伴わずに染色体の排除をねらう。これら実験は、上記のAIアルゴリズムの結果と統合して行われる。 また、未解決な課題として、染色体消去と細胞周期依存性ないしは必要性に関する知見が不在ある。この課題についても、上記の細胞分裂制御下の実験系を用いて、引き続き詳細な理解を試みる。 ヌクレアーゼ活性を欠いたdCas9を特定アレルに作用させることにより、DSBを染色体に引き起こさないにもかかわらず、ごく低値であるも染色体消去が引き起こされる現象を再現性を持って確認している。本現象は、短い細胞周期を有するヒトiPS細胞でみられ、細胞分裂過程が現象に必要と推定されるが、ゲノム改変を引き起こさないという点で追求に値する。エフェクターの融合のないdCas9のみを用いた場合の染色体消去率を基礎データとして蓄積する。
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