研究課題
基盤研究(C)
予後不良な癌として知られる膵癌では、しばしば強い間質反応がみられ、癌の浸潤・転移と密接に関係している。本研究で注目するthymosin-β4(Tβ4)は、癌悪性化マーカーとして良く知られる遺伝子であるが、がん微小環境における機能は全く知られていなかった。しかし、最近私が独自に作成したTβ4遺伝子改変マウスを用いて解析を行ったところ、がん微小環境の間質細胞が産生するTβ4が、癌細胞の増殖や転移に大きな影響を与えていることが示唆された。そこで本研究では、Tβ4遺伝子改変マウスを用いて、膵癌組織の微小環境におけるTβ4の役割を明らかにするとともに、Tβ4を標的とした新たな癌治療法の開発を目指す。
膵癌組織の微小環境におけるTβ4の役割を明らかにするため、Tβ4遺伝子改変マウスと膵癌モデルマウス(KPCマウス)を交配しTβ4遺伝子改変KPCマウス(Tβ4-KPCマウス)を得た。KPCマウスと比較してTβ4-KPCマウスでは膵癌の発症や進展に遅れが見られ、横隔膜播種や肝臓への転移も抑制される傾向にあった。また、これらマウス由来の膵癌組織を用いてRNA-seq解析を行った結果、Tβ4-KPCマウス由来の膵癌組織において、好中球やB細胞に特異的な遺伝子の発現量が顕著に少ないことが明らかとなった。以上の結果から、膵癌組織においてTβ4が好中球やB細胞の浸潤を誘導している可能性が示唆された。
癌細胞の増殖・転移には免疫細胞や筋線維芽細胞などの間質細胞との相互作用が重要であることが知られている。非常に予後不良な癌として知られる膵癌では、癌の進展に伴ってこれら間質細胞の浸潤や線維化などの間質反応が強く引き起こされ、これが癌の悪性度と密接に関係していることが知られている。本研究により、膵癌組織において高発現しているTβ4が、膵癌微小環境への免疫細胞の浸潤を誘導することで、癌の進展に寄与している可能性が示された。この結果により、Tβ4をターゲットとした膵癌治療法の開発が期待される。
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