研究課題
基盤研究(C)
予後不良な神経内分泌肺癌の組織発生には不明な点が多いが、非神経内分泌肺癌細胞から形質転換を介して生じる神経内分泌肺癌の存在が明らかになっている。申請者らはこれまで細胞分化における可塑性と神経内分泌分化特異的転写活性化因子が非神経内分泌癌細胞を神経内分泌癌細胞に形質転換させる条件として重要であることを明らかにしているが、完全な形質転換にはさらなる分化誘導が必要不可欠であると考えている。本研究では、神経内分泌細胞分化に深く関与する2種の転写制御因子に焦点を当て、これまでの神経内分泌肺癌発生機序研究を更に推進することにより、神経内分泌肺癌の発生機序の核心に迫りたい。
肺腺癌に対するチロシンキナーゼ阻害剤を用いた分子標的治療による神経内分泌癌への形質転換現象が報告されており、肺癌治療領域において大きな問題となっている。癌細胞の形質転換現象は、細胞型、組織型の変化として表現され、一種のダイレクトリプログラミング現象と捉えることもできるが、その機序には不明な点が多く、実験的に再現することは難しい。研究代表者らはこれまでの研究から、肺腺癌細胞を上皮間葉転換状態に置くことが神経内分泌癌細胞への形質転換に必要な条件であることを示してきたが、RB1/TP53異常により上皮間葉転換状態が惹起された肺腺癌細胞にREST遺伝子の編集を加え、更に神経内分泌細胞特異的な転写因子であるASCL1及びPOU3F4遺伝子を共発現させることにより、腺癌細胞から神経内分泌癌細胞への形質転換に成功した。このことにより、RESTを発現欠如することが神経内分泌癌への形質転換に必要かつ重要な条件であることが示された。また神経内分泌癌細胞において、どのようなメカニズムによりREST発現欠如現象が惹起されるのかについて、micro RNA (miRNA)の関与を考え、検討を行った。神経内分泌癌細胞株と非神経内分泌癌細胞株を用い、miRNA発現状態を網羅的に解析したところ、数種のmiRNAが神経内分泌癌細胞株特異的に発現していること、そのうちの1種がREST発現を抑制することを突き止めた。次にMYT1Lの神経内分泌肺癌発生機序への関与について検討を行った。肺腺癌株に対しRB1、TP53の遺伝子編集を行い、これにMYT1Lを強制発現させることにより神経内分泌癌細胞への形質転換を試みた。結果として、RB1ノックアウト株、TP53ノックアウト株、RB1/TP53ノックアウト株いずれにおいても神経内分泌マーカー、神経特異的転写因子の発現誘導は見られなかった。
2: おおむね順調に進展している
非神経内分泌肺癌から神経内分泌肺癌への形質転換に必須の条件が、RB1/TP53不活化による上皮間葉転換状態、RESTの発現欠如、そして神経内分泌細胞特異的転写因子であるASCL1及びPOU3F4の発現であることを明らかにし、またMYT1Lの関与の可能性は低いことを明らかにしたから。
今後は肺腺癌から神経内分泌癌への形質転換現象におけるREST発現欠如機構の全容解明に尽力していく。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
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