研究課題/領域番号 |
21K06950
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49030:実験病理学関連
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
杉本 幸太郎 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (40791009)
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研究分担者 |
小林 信 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (60761947)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 核内受容体 / ビタミンD / がん / CRISPRライブラリ / 順遺伝学 / ゲノム編集 |
研究開始時の研究の概要 |
CRISPRライブラリを用いた順遺伝学的アプローチを用いて、ビタミンDシグナルを制御するビタミンD以外の因子を網羅的に同定する。同定した遺伝子産物ががんの進展に果たす役割を解明すると共に、診断マーカーや治療標的としての有用性を検証する。
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研究実績の概要 |
ビタミンDシグナルは骨代謝のみならず腫瘍発生など様々な生命現象に関与している。同シグナルの作用は主にビタミンD受容体(VDR)など核内受容体(NR)に属する転写因子を介した下流標的遺伝子の転写制御である。NRは特異リガンドのみならず様々な内因性蛋白質によって活性が調節されているが、これまでの創薬研究はリガンドの同定や新規合成に偏っており、内因性蛋白質を対象とするものは少ない。最近我々は最近細胞接着を基点とする一連のシグナルカスケードが、NRのセリン・リン酸化を介してリガンド感受性を著しく亢進させることを報告した。これはキナーゼを標的としてビタミンDシグナルを制御するという新たな治療戦略の可能性を示唆する。そこで本研究では順遺伝学的アプローチによりビタミンDシグナル関連蛋白質を網羅的に同定しようと試みた。まずビタミンDシグナルの蛍光レポーターを恒常発現する細胞株を樹立し、次に全遺伝子に対すプール化されたCRISPR-gRNA発現ベクターを導入する。これらの細胞にビタミンDを低濃度と高濃度で処理し、セルソーターで蛍光強度を測定する。低用量のビタミンDでレポーター活性の高いものを抽出すれば、これにはビタミンDシグナルを負に制御する遺伝子群を機能欠失した細胞群が含まれているはずで、逆もまた真である。この細胞群からゲノミックDNAを回収し取り込まれたsgRNA配列を次世代シークエンシングによって解析することで、ビタミンDシグナルを正負に制御する遺伝子群を網羅的に同定する。以上の研究計画のうち、本研究期間では上記のうちレポーター系の構築、選定、ならびに最適化を実施した。またgRNAライブラリの準備とトランスフェクションの最適化、および細胞のソーティングまで完了している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
VDR応答配列を含むビタミンDシグナルの蛍光レポーターを恒常発現する細胞株の樹立を試みた。まずいくつかのVDR応答配列とCMV最小配列で構成されたプロモーター下にEGFPを発現するプラスミドベクターを構築し、HEK293T細胞に導入してクローン化した。その結果、同一クローン内でも細胞ごとに蛍光強度に大きなばらつきがみられ、培養中にランダムなサイレンシングが起こっている可能性などが考えられ、レポーターとして適さないと判断した。よって次にビタミンDの分解酵素であり、ビタミンDシグナルによって正に制御されるコンセンサス下流遺伝子であるCYP24Aのプロモーター約10 kbをクローニングしたEGFPレポーターを構築した。これをHEK293Tに導入したところ蛍光強度は概ね一定であったが、一方でビタミンD添加による蛍光強度の増強は極めて微弱であった。よってHEK293T細胞はビタミンDシグナルの構成分子が十分に発現しておらず、レポーター細胞として適さないと結論した。そこでビタミンDに応答することが既に知られており、なおかつ遺伝子操作もある程度しやすいヒト表皮由来細胞HaCaT細胞を選択し、CYP24Aレポーターを導入した。その結果ビタミンDの濃度依存的な蛍光強度の増強が確認された。さらに同細胞をクローン化し、ビタミンD濃度に応じて均一に蛍光を発する細胞株を選定した。またgRNAライブラリはレンチウイルスの濃縮とHaCaT細胞への導入の最適化を完了した。またセルソーティングの条件も最適化している。拡散抽出と次世代シークエンシングを実施するところであるが、Cas9の活性が十分でないことが憂慮される結果が得られたため、いまいちど切断効率の評価を実施している。
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今後の研究の推進方策 |
クローン化したレポーター細胞に対し、全遺伝子に対すプール化されたCRISPR-gRNA発現ベクターを導入する。これによって全遺伝子がそれぞれノックアウトされた細胞をバルクで得ることができる。続いてこれらの細胞にビタミンDを低濃度と高濃度で処理し、セルソーターで蛍光強度を測定する。低用量のビタミンDでレポーター活性の高いもの(具体的には総細胞数の5-10%)を抽出れば、これにはビタミンDシグナルを負に制御する遺伝子群を機能欠失した細胞群が含まれているはずである。逆にビタミンD高容量培地においてレポーター活性が低いものを抽出すれば、同シグナルを正に制御する遺伝子群を機能欠失した細胞群が得られる。次に抽出した細胞群からゲノミックDNAを回収し、これらの細胞集団に取り込まれたsgRNA配列をPCRと次世代シークエンシングによって解析することで、ビタミンDシグナルを正または負に制御する遺伝子群を網羅的に同定することができる。そのうち未報告の分子について、がん細胞における機能欠失と機能獲得を実施して分子機能を解明すると共に治療標的としての可能性を検証する。またヒト手術材料における候補分子の発現を免疫組織化学により評価し、予後などの臨床情報と比較解析することによってマーカー分子としての有用性を明らかにする。以上によってビタミンDシグナルに着目した新規がん診断治療法を開発すると同時に、順遺伝学的に抽出した分子群の確からしさを示す原理の証明(poof of principle)を達成する。
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