研究課題
基盤研究(C)
ボツリヌス症の治療薬としては、唯一、ウマ抗毒素製剤が有効であり国内備蓄されているが、血清病等の副作用の問題や製造過程におけるコストの問題がある。これらの問題点を克服するために我々はヒト型抗体製剤に着目し、これまでに血清型B型毒素に対するヒト型抗体の開発に成功している。本手法および知見はヒトに中毒を起こす他の血清型 (AEF型) に対するヒト型抗体作製に応用が可能であり、効率良くヒト型抗体を作製することができると考えられる。本研究ではヒトに中毒を起こす全ての血清型毒素を中和する先進的なヒト型抗体セットの作出を目指す。
本研究では、ヒトにボツリヌス中毒を起こすボツリヌス毒素に対する安全で高い中和力価を持ち、なおかつ生産効率の良い抗毒素抗体(ヒト型抗体)製剤セットの作出を目指す。これまで、B型ボツリヌス毒素(BoNT/B)を中和するヒト型抗体M2およびM4の中和機構を解析し、M4はBoNT/Bの神経細胞への結合を阻害し、M2はBoNT/Bの神経細胞への結合、基質(VAMP2)切断以外の過程を阻害していることを明らかにしている。M2は活性ドメイン(軽鎖)の小胞内から細胞質への移行(トランスロケーション)を阻害している可能性が考えられたため、その過程を解析する実験系の構築を試み、リポソームを用いたアッセイ方法を検討中である。A型ボツリヌス毒素(BoNT/A)に対するヒト型抗体については4種(NT-523、NT-320、BT-015、BT-175)の抗体産生細胞が樹立されている。培養上清より抗体(IgG)を精製し、BoNT/Aとの結合をELISAで解析した結果、NT-320、BT-015、BT-175はBoNT/A特異的に結合し、NT-523は非特異的な結合を示すことが明らかとなった。また、Competition ELISAによりエピトープの重複を解析した結果、顕著な結合阻害は示さず、それぞれの抗体は異なるエピトープを認識していることが明らかとなった。この結果より、NT-320、BT-015、BT-175は組み合わせて使用することが可能であることが示唆された。一方で、マウスバイオアッセイにて中和活性を解析した結果、NT-320、BT-015、BT-175は単独で中和活性を示し、さらに抗体を組み合わせることにより活性が上昇することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
B型ボツリヌス毒素(BoNT/B)に対するヒト型抗体M2およびM4の中和作用機序解析を進めており、M4がBoNT/Bの結合ドメインを認識し、神経細胞への結合を阻害していることを明らかにしている。M2についてはBoNT/B活性ドメインの細胞質へのトランスロケーションを阻害している可能性が示唆されたため、その解析方法を構築した。A型ボツリヌス毒素(BoNT/A)に対するヒト型抗体については、4種NT-523、NT-320、BT-015、BT-175を培養上清から精製し、結合活性および中和活性(抗体単独および組合せでの活性上昇)を確認することができた。当初の計画通り、B型に関しては、M2およびM4のBoNT/B中和機序解析を進め、A型に関しては、BoNT/Aに対するヒト型抗体を精製し、活性を確認することができている。
BoNT/Bに対する中和抗体M2の作用機序解析を進める。リポソームを用いたトランスロケーションアッセイを用いてM2のBoNT/B活性ドメインの細胞質移行阻害を解析する。BoNT/Aに対する結合活性および中和活性が確認できたヒト型抗体3種NT-320、BT-015、BT-175については、BoNT/Aの各ドメイン(活性ドメイン、細胞結合ドメイン、トランスロケーションドメイン)を組換えタンパク質として発現させ、各抗体がどのドメインを認識しているのかを明らかにする。また、それぞれの抗体の作用機序についても解析する。さらに、最も高い中和効果を示す抗体の組合せを決定する。
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