研究課題/領域番号 |
21K07027
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49050:細菌学関連
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
日吉 大貴 長崎大学, 熱帯医学研究所, 准教授 (00585599)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | サルモネラ / T3SS / 侵襲感染 / 好中球 / エフェロサイトーシス / 全身感染 / 3型分泌装置 |
研究開始時の研究の概要 |
サルモネラは、汚染された肉や卵・乳製品などの摂食により感染する食中毒菌である。感染者のほとんどは、下痢や腸炎のような自然に治る軽症を示すが、免疫力が弱い人や、チフス菌などの血清型のサルモネラに感染した場合は重篤な全身感染になり、それにより年間推定68万人が全世界で亡くなっている。また抗菌薬の効かないチフス菌が現在、世界中に広まっており問題になっている。 近年申請者は、サルモネラの持つ3型分泌装置という病原因子を介した新規の全身感染発症機構を発見した。本研究では、サルモネラがどのように全身感染を起こすのか詳細に調べる事により、抗菌薬に頼らない予防・治療法の開発を視野に入れたものである。
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研究実績の概要 |
これまで本研究題目において、我々が見出したサルモネラ(ネズミチフス菌)の新規好中球内生存戦略について解析を行ってきた。サルモネラは細胞内寄生菌の一種であり、宿主マクロファージ内にサルモネラ含有液胞(SCV)と呼ばれる特別なニッチを形成してその中で増殖ができる。しかしある段階に至ると、SCVはサルモネラの持つIII型分泌装置(T3SS-2)により孔が開けられ、マクロファージの細胞死を誘導し、結果的に補体経路も活性することで好中球をリクルートする。そしてリクルートされた好中球は「エフェロサイトーシス」によりサルモネラごと死んだマクロファージを取り込む。このマクロファージのデブリが好中球の産生する活性酸素種を中和し、サルモネラの好中球内で生存性を高めることを明らかにした。以上の成果は、これまで国際誌や学会で発表してきた。 当年度においてさらに、好中球のエフェロサイトーシスのTime-Lapseイメージングおよび、この活性のキーとなるT3SS-2エフェクターを中心に解析した。サルモネラが感染したマクロファージは、T3SS-2により細胞死が誘導されることで無傷のマクロファージと比較してサイズが小さくなり、好中球に取り込まれ易くなる。しかし、好中球が対象を取り込む形式は、ファゴサイトーシスのように包み込む(wrapping)場合や、トロゴサイトーシスのように少しずつかじる(nibbling)まで様々である。そこで我々は、Time-Lapseイメージングにより、その取り込み過程を明らかにすることを試みたが満足できる結果は得られておらず、現在問題の解決に努めている。エフェロサイトーシスの誘導にはT3SS-2が必須であるが、この装置からは30種以上のエフェクターが分泌されていることが知られている。スクリーニングの結果、その中の一つのエフェクターの強い関与を見出し、それが持つ酵素活性がその誘導に重要であることをアミノ酸置換した変異体により確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で当初に掲げた3つの学術的な「問い」のうち、既に2つはおおむね達成しており、その成果は国際誌や学会でも発表している。最後の「問い」あたるエフェロサイトーシスの誘導に関わるT3SS-2エフェクターの特定についても、T3SS-2エフェクターを網羅する33種の欠損株ライブラリーを用いて、一つのエフェクターの強い関与を見出し、現在その解析を進めている。以上のことから、これまで2年間での成果としては順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在見出しているエフェロサイトーシスの誘導に関わるT3SS-2エフェクター(仮にEffector Xと呼ぶ)の解析に重点を置く。これまでの報告によると、Effector Xは既知の酵素活性を有していると共に、ネズミチフス菌のマウスにおける侵襲感染性に非常に重要であることが報告されている。しかしEffector Xの酵素活性とエフェロサイトーシス誘導活性は直結しないことから、その酵素活性を介したメカニズムの解明は、新規性の高いサルモネラの侵襲感染性発揮機構の発見につながる可能性が考えられる。また、現状の課題である好中球エフェロサイトーシスのTime-Lapseイメージングについても、好中球の感染マクロファージの取り込み様式を理解するうえで重要であると考える。したがって、利用している顕微鏡会社のテクニカルにも相談しながら問題点を克服し目的を達成することで、本研究課題をさらに推進できるよう努める。また得られた成果は、国際誌や国内外の学会で積極的に発信していく予定である。
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