研究課題
基盤研究(C)
不治の病とされてきた結核も人為的制御可能な疾患になりつつあるが、現在唯一実用化されているBCGワクチンは、小児に対する結核予防効果は認められるものの、成人の肺結核に対しての効果が極めて低く、問題視されている。結核の発症抑制には、IFN-γを主体とする1型免疫応答に加え、IL-17Aを中心とした3型免疫応答の重要性が判明しつつある。新たな結核ワクチンとして1型免疫応答と3型免疫応答の相互作用を解明し利用する必要があり、この概念を実証するために、より詳細な3型免疫応答の作用機序を明らかにする。また、結核防御に必要な1型ならびに3型免疫応答を共に増強しうるシステムを構築し、その応用を目指す。
結核菌の排除にはIFN-γを産生するTh1細胞が重要だが、結核菌はその誘導を遅延させる。この現象は結核ワクチン株であるBCGを接種しても回避できない。そこから、結核制圧にはIFN-γ以外のエフェクター分子が必要と考えられ、炎症性サイトカインIL-17Aが候補の一つに挙げられる。一方、IL-17A産生誘導因子のIL-1βの産生は結核菌の分泌蛋白であるZmp-1により抑制される。そこで、Zmp-1遺伝子欠損BCG (ΔZmp1-BCG)のIL-17A産生増強作用を推定し、野生型(WT) BCGで全身免疫を誘導した状況でのΔZmp1-BCG追加接種のIL-17A誘導と宿主への影響を検証した。C57BL/6Jマウスの背部皮内に5x106 cfuのWT-BCGを接種し、8週後に5x10e6 cfuのWT-BCGあるいはΔZmp1-BCGを経気道接種した。対照群として、追加BCG非接種群をおいた。その後、宿主への影響を経過観察するとともに、追加接種3日目の肺を採取し、炎症性サイトカインの発現とその産生細胞をELISA、real-time PCR、フローサイトメトリ (FCM)を用いて比較した。その結果、WT-BCG接種後にΔZmp1-BCGを追加接種した群のみ生存率が低下した。肺の炎症性サイトカインの解析では、ΔZmp1-BCGを追加接種した群でIL-1βとIFN-γの産生が高い傾向が認められ、細胞内サイトカインFCM解析の結果、IL-17A産生細胞 (特にTCRγδ+ T細胞)が高頻度に検出された。以上の結果から、WT-BCGの初回接種したことにより全身性のTh1免疫応答が誘導され、そこにΔZmp1-BCGを追加接種したことによってIL-1βが強く産生誘導された結果、IL-17Aが過剰に産生され、好中球を含む炎症性細胞の浸潤を伴った肺炎の急性増悪を誘導したと推定された。
3: やや遅れている
IL-17A産生誘導因子のIL-1βの産生は結核菌の分泌蛋白であるZmp-1により抑制される。そこで、Zmp1欠損(ΔZmp1)BCGのIL-17A産生増強作用を推定し、野生型(WT) BCGで全身免疫を誘導した状況でのΔZmp1-BCG追加接種のIL-17A誘導と宿主への影響を検証した。予想として、従来の全身性抗結核免疫を更に増強されると推定していたが、結果は、ΔZmp1-BCGを追加接種したことによってIL-1βが強く産生誘導された結果、炎症性サイトカインであるIL-17Aが過剰に産生され、過剰なIFN-γ産生T細胞や好中球を含む炎症性細胞の浸潤を伴った肺炎の急性増悪を誘導した。予想外の結果になったことから、免疫増強誘導の最適化を検討することになった。
過剰なIFN-γ産生T細胞や好中球を含む炎症性細胞の浸潤を伴った肺炎の急性増悪を誘導してしまったことから、過剰炎症を発症させない追加接種プロトコールを検討する予定である。
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FASEB Journal
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