研究課題/領域番号 |
21K07074
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49070:免疫学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
角川 清和 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (80391910)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | T細胞分化 / Themis / 転写制御 / T細胞受容体シグナル / 胸腺 / 核内移行 |
研究開始時の研究の概要 |
T細胞は全身を血流とともに巡り、ウイルスなどの病原体を排除する働きを持つと同時に、誤って自分を攻撃してしまう自己免疫疾患の原因になりうる存在でもある。病原体のみを攻撃し自己は認識しない、という教育は胸腺という臓器で行われる。この教育の過程で重要な働きをするTHEMISというタンパク質の細胞核での働きを明らかにすることを目指す。このTHEMISが多発性硬化症、炎症性大腸炎、アトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患とかかわっているという間接的・遺伝学的な証拠があるので、これらの病気がTHEMISによっておこるのかどうか、また予防できるのかどうか研究を進める。
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研究実績の概要 |
T細胞特異的に発現しているThemisの遺伝子座はヒトのセリアック病、アトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、関節リウマチなどの自己免疫疾患との関連が示唆されている。また、Themis欠損マウスでは成熟T細胞が激減しており、ThemisがT細胞の分化成熟や機能に重要な働きをしていることは明らかであるが、その作用機序は明らかになっていない。我々はThemisの核での働きに焦点を当て研究を進めている。 内因性の核移行シグナルを改変するによって、細胞質にのみThemisタンパクを発現するマウス(THc)、または外来性の核移行シグナルを付加することによって核にのみThemisが存在する変異マウス(THn)を作成した。これらのマウスではT細胞の成熟が阻害されていたことよりThemisは細質と核の両方に存在する必要があることが分かった。 また、THcマウスとTHnマウスの交配により作成したTHc/nマウスでは核と細胞質にThemisが存在するが互いに他方の分画には移動できない。このマウスでもT細胞の分化は阻害されておりThemisの核と細胞質の相互移動が重要な役割をしていることが分かった。そこで、ThemisタンパクがT細胞受容体刺激を受ける前後でどのようなタンパク質と相互作用しているのかを調べるために外因性のビオチン化酵素であるTurboIDをThemisに結合し、ビオチン化されるタンパク、すなわちThemisに近接したタンパクを細胞質分画と核分画に分け質量分析により網羅的に解析した。その結果、細胞質ではVav1やPtpn22といったシグナル伝達にかかわる分子が、核ではT細胞に特異的な転写制御因子が検出された。これはThemisがTCRシグナルをうけ遺伝子発現を調整している可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Themisタンパクが細胞質から核へ移動するのが重要であるのか検討するためERT2-Themis融合遺伝子をノックインしたマウスを樹立した(THert2マウス)。現在C57BL/6純系への戻し交配が8代完了した。ERT2はヒトエストロゲン受容体の一部でタモキシフェン非存在下では細胞質に、タモキシフェンと結合することによって核へ移動することが知られている。これを利用しERT2-Themisノックインマウスを作成しThemisタンパクの核移行を調整できるようにした。THert2マウスの胸腺細胞を用い、タモキシフェンの経口投与前後でThemisタンパクが細胞質から核へ移行することを確認した。さらに投与前では末梢血中のT細胞数が減少していたがタモキシフェンの投与により回復した。このことは少なくともThemisが細胞質から核へ移動することがその機能に重要であることを示唆している。 何がThemisを核へ連れていくのか、あるいは何にThemisが核に連れていかれるのかを突き止めるため外因性のビオチン化酵素であるTurboIDとThemisを結合させたcDNAをT細胞株に導入した。TurboIDは10ナノミリメートル以内に近接するタンパク質のリシン残基をビオチン化するこそである。したがって、Themisに一度でも近接したタンパクを感度よく検出できる。この系を用いてTCR刺激前後での細胞分画、核分画でそれぞれの変化を見たところ、細胞質ではこれまでの報告通りアダプタータンパクであるGRB2, チロシン脱リン酸化酵素であるSHP1、また、VAV1などのシグナル伝達分子が検出された。一方核分画ではBCL11B, TCF7, RUNXなどT細胞分化に重要な転写因子がTCR刺激依存的に検出された。
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今後の研究の推進方策 |
質量分析による解析で核膜孔複合体を構成するタンパクであるNUPファミリータンパクもTCR刺激依存的にビオチン化されていることよりTCR刺激によってThemisが核膜を通過していることが確認できた。しかしながら、この系ではTCR刺激前後に細胞質及び核でThemisに近接するタンパク質は同定できるがこれらがThemisへの核への移行あるいは核からの移行に関与していると断定することはできない。一方、Themisと同じモチーフを有するGAREM1/2はアダプタータンパクである14-3-3により核移行を調整されているという報告がある。我々の質量分析の結果からも14-3-3は刺激後Themisと会合することが示されている。GRB2だけでなく14-3-3がどのようにThemisの細胞内局在にかかわっているのかを調べる予定である。 ThemisがTCR刺激を伝達し転写を制御している可能性を検証するため、Themisのクロマチン免疫沈降シークエンスを試みる。このために、Themisに対するChIP用の抗体を検討すると同時にTy1タグをThemisのN末端にノックインしたマウスを樹立し、T細胞分化に影響がないか確認したのちChIP-seqを試みる。また、Themisの核での働きを明らかにするため、会合している転写因子に対するChIP-seqをThemisノックアウトマウスの胸腺細胞を用いて行う。野生型の胸腺での結果と比較し差がないか調べる。また、Themisに対するChIP-seqを行いThemisの転写制御因子としての可能性を検討する。
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