研究課題/領域番号 |
21K07099
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
清水 一也 神戸大学, 保健学研究科, 保健学研究員 (50335353)
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研究分担者 |
三好 真琴 神戸大学, 保健学研究科, 講師 (50433389)
堀 裕一 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (80248004)
味木 徹夫 神戸大学, 医学部附属病院国際がん医療・研究センター, 教授 (80379403)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 膵臓癌 / 神経浸潤 / オルガノイド / 膵臓がん |
研究開始時の研究の概要 |
研究の全体構想は膵癌細胞の神経浸潤の分子機構を明らかにして新規治療法を創出することである。我々はヒト膵癌幹細胞が幹細胞マーカーCD133を発現することを示した。また、既存の抗がん剤に耐性の患者から10種類のCD133陽性膵癌幹細胞株を樹立し、細胞外基質を再構築すると自己複製能を獲得することを示した。また、この細胞株をマウスに移植した腫瘍もGemcitabine耐性を持つことを示した。本研究では、我々が樹立した①ヒト膵癌幹細胞株や②マウス人工膵癌幹細胞株とマウス後根神経節とをそれぞれ共培養するモデルで神経浸潤を再構築し、新規治療法を開発する。
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研究実績の概要 |
研究の全体構想は膵癌細胞の神経浸潤の分子機構を明らかにして予後改善のための新規治療法を創出することである。膵臓がんは5年生存率が10%以下と最も予後不良の疾患であり、遠隔転移や局所浸潤が予後を左右する。中でも神経浸潤が特徴と言えるほど切除標本において高率に神経浸潤を認めるが、術後のQOLを考慮すると、手術では必ず遺残し、局所再発が起こる可能性が高い。我々はこれまでに正常膵幹細胞と高悪性度のヒト膵癌細胞が幹細胞マーカー(CD133)を発現することを明らかにした(Stem Cells 2008; Pancreas 2009; Pathobiology 2011)。また、既存の抗がん剤Gemcitabine(GEM)に耐性の膵癌患者から10種類のCD133陽性膵癌幹細胞株を樹立し、細胞外基質を再構築することで自己複製能を獲得することを明らかにした(PLoS One, 2013)。一方、マウス膵臓組織幹細胞にGreen Fluorescent Protein、変異型KRASG12D、変異型p53、cyclin dependent kinase 4を遺伝子導入してマウス人工膵癌細胞(親株)を作成している。さらにin vivoで作成した親株由来腫瘍にGEMを長期投与することにより、耐性を獲得した腫瘍からGEM耐性株を樹立した。本研究では、我々が樹立した①ヒト膵癌幹細胞株や②マウス人工膵癌幹細胞株とマウス後根神経節とのオルガノイド培養モデルで神経浸潤を再構築し、新規治療法を開発する。初年度は、膵臓癌の手術標本を用いて、膵内神経節や腹腔神経節などの神経マーカーを探索した。さらに、我々が新規に開発したin vivo同所性膵癌組織片移植法により、マウス内での膵内神経浸潤を明らかにした(投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) ヒト膵臓がんの神経浸潤の解析 初年度は膵臓がんの神経浸潤患者の切除標本を使ってCA19-9 (膵癌細胞マーカー)との蛍光二重染色により、末梢神経に特徴的なマーカーを探索し、膵癌細胞浸潤を認める膵内神経節や腹腔神経節でperipherinとmyelin protein zeroが陽性となることを見出した。(2) ヒト膵癌幹細胞腫瘍片の同所性移植マウスモデルでの神経浸潤の検討 従来から多用される同所性膵癌細胞移植法に対して、よりaggressiveな表現型(高転移能・神経浸潤能)を再現する目的で、同所性膵癌腫瘍片移植法を開発した。ヒト膵癌幹細胞株を使いヌードマウスに移植したこのモデルでは有意に転移能が亢進し、一部のマウスで膵内神経浸潤も認めた。さらに、この新規モデルでは膵癌などの腺癌に特徴的な凝固能亢進も認めたことから、臨床例に近いマウスモデルが確立されたと考えられる(投稿準備中)。(3)in vitroでの神経浸潤モデルの構築 膵内神経の代用として、マウスの後根神経節(dorsal root ganglion: DRG)を使用した。野生型マウスより分離したDRGの免疫染色の結果、膵内神経同様に、peripherinとmyelin protein zeroが陽性であることが判明した。また、神経周膜がclaudin1陽性であることも明らかにした。このDRGとヒト膵癌細胞株をさまざまな方法で共培養する系を検討したところ、ヒト膵癌症例で観察されるperineural invasionに近いモデルの確立にも成功している。しかし、これまでのところ、神経周膜を超えて神経内への浸潤(intraneural invasion)に関しては観察されていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、我々が独自に樹立作成した(1)ヒト膵癌幹細胞株や(2)マウス人工膵癌幹細胞株をマウスDRGとオルガノイド培養して神経浸潤モデルを構築し、その分子機構を明らかにして、神経浸潤抑制の新規治療薬の開発を目指す。初年度と二年目の実績から、ヒト膵癌幹細胞株あるいはGEM耐性マウス人工膵癌細胞をin vivoで移植すると臨床例と同様に膵内神経節への神経浸潤を認めた。今後はマウスDRGを使って、in vitroでの神経浸潤モデルを構築するために、オルガノイド培養を行ない臨床例に近いモデルを目指す。最近、ヒト膵癌細胞株由来のエクソソームが自身の癌細胞に上皮間葉転換を誘導すること、その分子機構にはエクソソーム内のtransforming growth factor-b1が部分的に関与していることを見出し、転移の極初期のプロセスであることを報告した(Med Mol Morphol, 2022)。さらに、ヒト膵癌細胞株由来のエクソソームが遠隔転移先の血管内皮細胞に内皮間葉転換を誘導することにより、血管透過性を亢進させること、すなわちpre-metastatic nicheを形成して膵癌細胞のextravasationやcolonizationを促進して遠隔転移を亢進することも報告した(Pancreatology in press, 2023)。本研究では、神経浸潤と上皮間葉転換にも着目して検討を進めたい。また、intraneural invasionに関してはDRG内に毛細血管が存在することも確認しているので、膵癌細胞株由来のエクソソームによる内皮間葉転換にも着目して研究する予定である。本研究が遂行されれば、膵癌の神経浸潤を抑制する薬剤の開発にもつながり、予後改善に貢献できると考える。
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