研究課題
基盤研究(C)
がん細胞には免疫監視から逃れる免疫逃避機構が存在し、がん転移やがん免疫療法に対する抵抗性に寄与する。本研究では、がん浸潤・転移を促進することを我々が解明したANGPTL2に着目し、我々が開発した腎細胞がんモデルマウスや同マウス由来がん細胞株を用いた遺伝子発現及びシグナル解析、免疫学的解析を実施し、ANGPTL2を介したがん細胞の新規免疫逃避機構とがん病態の発症・進展におけるその意義解明を目指す。
R4年度における研究成果として、ANGPTL2によるMHC-I発現抑制メカニズムを解明した。ANGPTL2を発現する転座型腎細胞がん(tRCC)モデルマウス由来初代がん細胞株では、IFNγ誘導性MHC-I発現が減弱するが、ANGPTL2やintegirn α5受容体をKOしたtRCC細胞株では、IFNγ誘導性MHC-I発現が増強されているにもかかわらず、MHC-I発現誘導に関わるSTAT1やIRF1の発現は、ANGPTL2のKOによる影響を認めなかった。そこで、MHC-Iのエピゲノム制御機構を検討した。その結果、ANGPTL2やintegirn α5受容体をKOしたtRCC細胞株では、MHC-IプロモーターにおけるH3K27me3レベルが低下し、H3K4me3レベルが増加していることを見出した。そこで、H3K27のメチル化に関わるPRC2複合体の各構成因子の発現を検討したところ、EZH2、SUZ12、EEDといったコアコンポーネントの発現に影響は認めなかったが、サブコンポーネントであるJARID2の発現がANGPTL2やintegirn α5受容体のKOによって減少していることが明らかとなった。JARID2は、PRC2複合体の活性化や標的遺伝子へのリクルートに関与していることが報告されており、実際、ANGPTL2やintegirn α5受容体をKOしたtRCC細胞株ではMHC-IプロモーターにおけるEZH2結合量が減少していることを確認した。以上より、ANGPTL2は、integirn α5β1受容体を介してJARID2の発現を誘導することでPRC2複合体の活性化やMHC-Iプロモーターへの結合を促進することで、MHC-I発現を抑制することが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度における研究成果として、ANGPTL2シグナルが、がん細胞におけるMHC-I発現を減少させるメカニズムとしてPRC2複合体によるエピゲノム制御が重要であることを解明するなど、本研究は順調に進展していると考える。
今後、ANGPTL2をKOしたtRCC細胞株におけるJARID2発現を回復させた場合のMHC-Iの発現やエピゲノム変化を検討する予定である。さらに、腎細胞がん以外のがんにおいてもANGPTL2を介したMHC-I発現抑制が認められるか検討するため、TGCAといった公共データベースの登録データ用いた解析を行う予定である。
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