研究課題
基盤研究(C)
「液-液相分離」は特定のタンパク質とRNAが集合し、液滴と呼ばれる膜のない細胞内構造体を可逆的に形成することで、細胞機能を制御する重要な現象である。液-液相分離研究は未だ解析法の整備が不十分であり、分野の進展の足枷となっている。申請者はこれを解決するため、細胞内の液―液相分離の変化を検出するDroplet-TPP法を開発した。本研究では、リン酸化酵素mTORC1の下流で液-液相離が制御されることにより、がん促進がもたらされるという仮説に基づき、Droplet-TPP法を用いたmTORC1の下流シグナル解析から、新たながん促進機構を解明し創薬標的の同定を目指す。
「液-液相分離」は特定のタンパク質とRNAが集合し、液滴と呼ばれる膜のない細胞内構造体を可逆的に形成することで、細胞機能を制御する重要な現象である。本研究は、リン酸化酵素mTORC1の下流で制御される液-液相分離を新規に同定し、その機能と分子メカニズムをの解析を行うものである。本年度は、昨年度に同定したmTORC1依存的に形成される液滴についてmTORC1との機能的関連を探索した。その結果、液的に局在するmRNAについて、mTORC1によって翻訳が抑制されることがリボソームプロファイリング解析から明らかになった。これまでmTORC1による翻訳制御として、リボソームタンパク質の合成を標的とした翻訳促進的な制御が知られていた。一方で本研究で見出した翻訳制御はリボソームとは異なるmRNAを標的とした制御であり、既知のシグナル伝達とは独立したシグナルであった。次に翻訳制御の分子メカニズムを同定するため公開RNA-seqデータを利用し、特に翻訳制御を受けるmRNA群の新たな特徴を探索し同定した。さらにプロテオーム解析から6000タンパク質の比較定量解析を行ったところ、一群のmRNAの翻訳はmTORC1活性化時に促進されることが明らかとなった。P-bodyはこれまでに翻訳抑制に機能することが知られていたが、本研究からP-body形成は特定のmRNA群に対しては翻訳促進的に機能することが分かった。次にGO-term解析を行い、翻訳抑制を受けるmRNAの機能的特徴を調べたところ、転写に関連した機能を持つmRNA群が翻訳促進を受けることが分かった。以上のことから、mTORC1は下流には二つの翻訳制御メカニズムが存在し、一方では翻訳関連タンパク質の翻訳を促進し、もう一方では転写関連タンパク質の翻訳を促進するという独立した翻訳促進機能が見いだされた。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
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