研究課題/領域番号 |
21K07190
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50020:腫瘍診断および治療学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 宏樹 東京大学, 生産技術研究所, 特任准教授 (50418654)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 麻疹ウイルス / 腫瘍溶解性ウイルス / 樹状細胞 / 抗腫瘍免疫 / 腫瘍免疫 |
研究開始時の研究の概要 |
麻疹ウイルスはヒトのはしかを引き起こすウイルスである。申請者らはこれまでに、免疫細胞受容体(SLAM)への結合能を欠失した組換え麻疹ウイルス(SLAMblindウイルス)を作出し、このウイルスが麻疹の病原性を全く示さない一方で、腫瘍細胞で高発現するnectin-4を介して腫瘍細胞に効率よく感染することで強い腫瘍溶解能を発揮することを、様々な癌種を用いた担癌マウス実験系で証明してきた。 本研究では、SLAMblindウイルス自身の持つ腫瘍溶解活性に加えて、樹状細胞を介した特異的腫瘍免疫活性を増強することで、SLAMblindウイルスの抗腫瘍療法の効果を最大限に引き出すことを目標とする。
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研究実績の概要 |
申請者らはこれまでに、麻疹ウイルス野外株に対して免疫細胞受容体(SLAM)への結合能を欠失するアミノ酸変異(SLAMblind変異)を導入した組換え麻疹ウイルス(SLAMblindウイルス)を作出し、このウイルスが腫瘍細胞で高発現するnectin-4を介して腫瘍細胞に効率よく感染し増殖することで強い腫瘍溶解能を発揮することを証明してきた。さらに、マウス腫瘍細胞株でもヒトnectin-4を発現させるとSLAMblindウイルスが効率よく感染して細胞を殺し、免疫保有マウスへ移植したin vivo担癌モデル系でも腫瘍増大を抑制することを明らかにした。これらの知見を元に、本研究課題では、樹状細胞を介した特異的腫瘍免疫活性を増強することで、SLAMblindウイルスの抗腫瘍効果を最大限に引き出すことを目標とした。 本年度は以下の3項目を中心に本研究課題を遂行した。 1) 樹状細胞に麻疹ウイルスワクチン株を感染させることで樹状細胞を介した抗麻疹ウイルス免疫が確立され、それによりSLAMblindウイルスが感染した腫瘍細胞に対する抗腫瘍免疫も増強されると考えられる。そこでワクチン株に感受性のマウス樹状細胞株の樹立法の検討を行った。 2) T細胞等から産生されるFlt3L分子が樹状細胞の誘引活性をもつことが報告されている。そこで組換えウイルス作出技術(リバースジェネティクス)を利用し、SLAMblindウイルスゲノム内にFlt3L遺伝子を搭載した組換えウイルスの作出を行った。 3) in vivoでのマウス免疫応答の評価系を確立するために、ヒトnectin-4を恒常発現するマウス腫瘍細胞株を複数作製し、in vitroでのSLAMblindウイルスの感染効率や殺細胞能などを測定すると同時に、免疫保有マウスへ移植してSLAMblindウイルスのin vivoでの抗腫瘍活性を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 麻疹ウイルスワクチン株感受性のマウス樹状細胞を樹立するために、市販のマウス樹状前駆細胞株を用いて、感染受容体となるヒトSLAM遺伝子を細胞内へ高効率に導入する方法を検討した。当初の計画であるエレクロトロポレーションを利用した遺伝子導入を数多くの条件で試験したが、プラスミドによる遺伝子発現量は著しく低いことが判明した。そのため、ヒトSLAM遺伝子の導入を組換えレトロウイルスによる恒常発現細胞株の樹立に切り替えることとした。哺乳類細胞感染組換えレトロウイルス作出系を用いて、乗法に従いヒトSLAM発現組換えレトロウイルスを作成した。これをマウス樹状細胞株に感染させた後に選択培地でのセレクションを行い、複数の細胞クローンを得ることができた。現在、細胞株クローンのSLAM発現量および麻疹ウイルスワクチン株の感染効率を測定し、最も適したマウス樹状細胞株を選択中である。 2) 申請者らが樹立したリバースジェネティクスを利用し、SLAMblindウイルスゲノム内にFlt3L遺伝子を搭載した組換えウイルスの作出を行った。リバースジェネティクスに必要となる、ウイルスゲノム全長cDNAにFlt3L遺伝子を挿入したプラスミドを作成し、リバースジェネティクスを実施して、目的の組換えウイルスの作出に成功した。現在は得られたウイルスのクローニングを行なっている。 3) 申請者らのグループによりヒトnectin-4を恒常発現するマウス腫瘍細胞株が複数作製され、in vitroでのSLAMblindウイルスの感染効率、殺細胞能、またin vivoでの免疫保有担癌マウスモデルに対するSLAMblindウイルスの抗腫瘍活性を評価した結果、in vitroでは効率よく細胞を殺すがin vivoでは腫瘍溶解効果が低い細胞株が得られた。このことから、本研究計画に適した腫瘍細胞株が樹立できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
・ワクチン株感染樹状細胞のマウス投与による抗腫瘍能増強の検証 当該年度に得られたヒトnectin-4発現マウス腫瘍細胞株を移植した担癌マウスにSLAMblindウイルスを接種後、麻疹ウイルスワクチン株を感染させたヒトSLAM発現マウス樹状細胞を腫瘍部に投与し、腫瘍サイズの変化を非投与群と比較する。さらに、通常の生体内で起こりうる腫瘍免疫の模擬として、in vitroで腫瘍細胞を貪食させた樹状細胞を作製しこれを投与した群とも比較することで、本試験特異的な有効性を評価する。 ・Flt3Lの効果の検討 当該年度に作出した、Flt3L遺伝子搭載SLAMblindウイルスを、上記の担癌マウス実験系に用い、通常のSLAMblindウイルスの結果と比較してFlt3L分子の活性と有効性を評価する。 ・全身性免疫確立の検証および腫瘍部位での免疫応答の検索 本試験により全身性の腫瘍免疫が確立されると予想されることから、その検証としてまず腫瘍細胞をマウス個体の2カ所以上に移植し、そのうちの1カ所のみにSLAMblindウイルスを接種することで、他の部位でも腫瘍増大抑制効果を示すか検索する。また、免疫確立後に再び腫瘍細胞を移植し、免疫による腫瘍の排除が起こるか検索する。本試験で抗腫瘍活性の増強が見られた際は、腫瘍部位で実際にどのような免疫応答が起きているかを、樹状細胞の集積やキラーT細胞の活性など様々な免疫学的手法を用いて検索する。
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